恋の味を教えよう
神宮寺レンのことはよく知っていた。
高校1年の時に同じクラスだったから。
その頃の神宮寺レンが授業を受けている姿を私はあまり記憶していない。
教室にいたとしても然程寝ていたような気がする。
夜、遊び歩いているとかいう噂を耳にしたりもした。
そんな素行の悪いレンでも教師は特に彼を呼び出して叱るようなこともなかった。
というのもレンは神宮寺財閥の御曹司なので多額の寄付金が学園に入っている為であろう。
全てにおいてやる気がないようなそんな眼をしていたことはよく覚えている。
せっかく目鼻立ちの良い顔をしているのに勿体無い。
そんな風に思っていたら彼は転校してしまった。
高校2年になり、神宮寺レンがいなくなったことで大半の女生徒達は落胆していた。
居るだけで存在感はあったし、彼と関係を持っていた女生徒も少なくはなかったようだ。
彼がいなくなった後もレンの話題は度々あがって、転校先が早乙女学園であることを知った。
早乙女学園は全寮制でアイドルコースと作曲家コースに分かれているとか。
レンはアイドルコースだというので、ああやっぱり彼はそういう道が合っていると思った。
あんな立っているだけで画になる人なんてそう見たことないし、普通の学生生活なんて似合わない。
ちょっと覗きに行ってみようよ、とに言われて私は最初それはどうだろうと返事した。
未来のアイドル達が通う高校を覗くだなんてそう簡単にできることではないのでは?と思ったのだが、正直私も神宮寺レンの姿が見たかった。
渋々というふりをして結果私はと早乙女学園までやってきた。
「すご…はじめて近くまできたけど、本当に広い敷地なんだね」
「学校の規模じゃないね…」
校門から数メートル離れた位置から長く囲われている塀に凭れながら2人で話していた。
そもそも寮があるということは外へ出てくることなんかないんじゃないかと思うのだが、チラホラと外へ出てくる生徒達もいた。
と、そこに夕陽に透けた橙色の肩より少し上まで伸びた髪を靡かせた神宮寺レンが現れた。
まとわりつく女生徒達に笑顔を振りまいている。
その姿は前にもよく見たことのある光景だったが、何より彼の眼が前とは全く違っていた。
単純に眼の中に光が入ったような、そんな感じだった。
そしてふと視線が合う。
すると、私達の制服を見て驚いたような顔をした。
「ごめん。レディ達。今日は先約があったんだ。また今度埋め合わせさせてもらうよ」
そう言うとレンが私達の方へと向かってくる。
正直ただちょっと見るだけのつもりだったので、こんな展開は予想していなかった。
思わず彼が近く度に一歩後ずさりしてしまう。
「おいおい。どうして逃げるんだい?わざわざ俺に会いに来てくれたんだろ?」
「そうです!」
「!?」
「素直な子は好きだよ。そっちの君は…あれ?確か…クラスが同じだったね」
覚えられているとは思わなかった。
見てない振りをして、ただそれとなく視界の端に入るようにしていた。
その長い橙色の優しい髪が綺麗でとても好きだった。
たまに聞こえてくる耳の奥に響く低い甘い声が好きだった。
こんな風に面と向かって喋ることはなかったけれど、ずっとレンの視界に入ってみたいと思っていた。
「ああ、思い出した。ちゃん…だったね。視線をいつも感じていたよ」
瞬時に顔中に熱が集まるのが分かった。
まさかばれていたとは。
思わず睨むようにレンを見上げる。
「おいおい、そんな睨むことはないだろう?可愛い顔が台無しだ」
「そうやって誰にでもそんなこと言うあんたが嫌い」
想いとは裏腹な言葉が勝手に口をついて出た。
隣にいるも驚いているだろう。
それでもレンは余裕そうな微笑みを讃えている。
「レディにそんなことを言われたのははじめてだよ」
「世界中の女があんたを好きだと思ったら大間違いだから!ね、」
「え!?あ、え?」
の手首を掴んで逃げるように歩き出した。
これ以上レンと対峙していたら自分もその他大勢の女子と同じ目で彼を見てしまいそうなのが嫌だった。
「またね、レディ。会いに来てくれて嬉しかったよ」
背後から聞こえた声がすごく優しくて、彼が新しい道を見つけることができたのだと分かった。
もうあの頃のどこか遠くを見た寂しげな瞳の彼はいないのだろう。
歩く速度を上げて、鼻の奥がつんとするのを感じながら本当に良かったと思った。
「は神宮寺レンに恋していたのね」
といつの間にか手を繋いでいて、ぼやける視界に私は小さく頷いた。
2016/4/25 18号
お題:
確かに恋だった 様