ドキピーアニメ館

唇から伝染する

同室の一十木音也が外出して居ないので、静かに読書でもしようと思っていた矢先のことだった。
同じSクラスのがこの部屋を訪れたのだ。
神宮寺レンを探しているらしい。
がレンを追いかけてこの学園に来たのは有名な話で、故に彼女はアイドルの道に本気で進もうとしているわけではないようだ。
レンと一緒に居たいから。
レンがアイドルになるなら私もなる。
そんな不純な動機でここにいるが一ノ瀬トキヤは嫌いだった。
それに神宮寺レンも本気でアイドルを目指す気がないのか、常に取っ替えひっかえ別の女生徒と遊んでいる。


「部屋にいなかったのですか?」
「うん。どこに行っちゃったのかなー。この学園無駄に広くて探すの大変だよーあー疲れた」


そう言いながら、がトキヤのベッドにドサリと背中から倒れた。


「勝手に人のベッドにあがらないでください。寝るなら音也のベッドに」
「えー!やだ。一十木くんのベッドよりトキヤのがふかふかだもん」


にっこり笑って本格的にベッドでごろごろし始めてしまう。
それを見てトキヤは深いため息を吐くしかできなかった。
そのうち飽きればレンを探しに行くに違いない。


「ねぇねぇトキヤ」
「なんです」


ソファに座ったまま振り返らずに返事をする。


「私ね、レンとしてみたいの」
「するって、何を」
「えっちなこと」
「…!?恋愛は校則で禁止されているでしょう!」


唐突な話に思わず動揺して声を荒げてしまった。
早乙女学園の校則で恋愛は禁止されている。
破った者は退学にさせられているし、今年も文化祭で盛り上がって羽目を外した生徒数人が学園をさっているのだ。


「片思いは良いって学園長言ってたもん。どうせレンは私のこと好きになってくれないし」
「そういう問題では…」
「トキヤは頭がかたいなぁ。そんなんだから歌に心が無いって龍也先生に言われるんだぞ」


わりと気にしているところをサラッと言ってのけられた。
反論できずにいるとベッドから起き上がったがソファーに座るトキヤを背後から覗きこんでいた。


「なんです」
「トキヤは好きな人いないの?」
「いません…恋愛してる暇なんてありませんし」
「なんで!?トキヤHAYATOの双子の弟だけあってモテるし、この前もAクラスの子に告白されてたじゃん!」
「…なんでそんなこと知ってるんですか」
「レンのこと探してたら見ちゃった」


てへへ、と悪戯っぽく笑いながら、興味たっぷりな眼差しでトキヤを見つめてくる。
それがなんだが悔しくて、歌のことまで持ち出された仕返しがしたくなってしまった。
ソファーの縁に頰杖をついてトキヤを見つめるの頬に触れた。
ぴくり、と瞳が揺れる。
の瞳には加虐的な笑みを浮かべたトキヤが映っているだろう。
そのままの頬にかかる黒い髪の毛を耳にかけると、口元を寄せた。


「練習してみますか?」


できるだけ低い声で囁くと、みるみるうちに彼女の耳が赤くなる。
何か言いたげな唇が開く前、自分でもよく分からないうちにその唇を塞いでいた。
彼女の呼吸が一瞬止まるのが分かる。
レンを好きだと言っているの唇を塞ぐのは、トキヤの中でちょっとした歪んだ感情を芽生えさせる。
がトキヤの肩を押しのけて漸く身体が離れた。
そのタイミングで部屋のドアがガチャリと開くと、が待ち望んでいたレンが現れた。


「イッチー、この前のCDって、…あれ?」
「レン!!」


瞬間はすかさずレンのところに駆け寄ると抱きついた。


「イッチー、に何かしたの?」
「さっさと連れて帰って下さい。読書の邪魔だったんですよ」
「ふーん。よしよし、何があったか知らないけど部屋まで送るよ」


じゃあ、また後で来るから、とレンがを連れて部屋を去っていった。
待ち望んでいた清寂が訪れる。
なのに、トキヤの心臓がうるさいほどに鳴っている。
慣れないことはするものじゃない。




2016/4/25 18号
お題:確かに恋だった 様