僕と彼女の一定距離
「え、まじなんだ」
まあるい瞳を更にまあるくして驚いた声をあげたのは森田剛の彼女のだ。
渋谷にあるBunkamuraの少し先を右に曲がったところにある、魚が美味しいと評判らしいお店の個室で俺と剛くんは向かい合って座っていた。
iPhoneを操作しながら剛くんくんが2本目の煙草に火をつけると、LINEが立ち上がるのが見えた。
俺も今では剛くんとLINEで繋がっている。
10年前では考えられない。まさか剛くんとこうしてご飯を食べたり、番号を交換して、LINEのやりとりをするなんて。
「ついたらしいから迎えに行ってくるわ」
半分くらいまで吸った煙草を灰皿に押し付けて剛くんは個室から出て行った。
わさわざ迎えに行ってあげるなんて優しい。
そして冒頭ののセリフに戻るのだ。
「ひさしぶりだね!」
「え、あ、いや、うん。そうね…ていうか、え?本当にあなた達ご飯食べに来てるんだね」
席に着いたは俺と剛くんを交互に指差して、怪訝な顔をしている。
久しぶりに俺と顔を合わせた事よりも余程相葉雅紀と森田剛の組み合わせに納得がいかない様子だ。
「そうは言ってもこいつ忙しいからそこまで頻繁には会ってねぇよ」
「はっ!そうだった…雅紀もすっかり売れっ子なんだった。私みたいな下々の者とご飯だなんてごめんね」
「ちょっとやめて!俺がなんか嫌なやつみたいになるから!そういう言い方やめて!」
長く会っていなかったとはいえ、空白の時間を感じさせないのはが昔とそんなに変わらないからだろうか。
服装は昔より少し落ち着いてる感じはするけれど、見た目はほとんど変わらない。
「前々から剛くんが雅紀とLINEしたりご飯食べてるって聞いてはいたんだけどね、にわかには信じられなくて」
「たまたま今日会うって言ったら来たいって言うからさ」
「ちょうど雅紀に会いたいなって思ったんだよね。あっ!この前夢に出てきたんだよ!内容忘れたけど」
無邪気に笑いながら言うけれど、実際問題少しだけ心臓がはねた。
もしも、もし俺がまだの彼氏だったら、彼氏の前で他の男にこんな事言いだしたらきっとムッとする。
でもがこんな事を言うのは、気持ちがちゃんと剛くんにあって俺のことを何とも思ってないからだ。
言葉以上の深い意味はないから言えることなんだろう。
その証拠に剛くんは涼しい顔してさっき店員さんが運んできたコーラを飲んでいる。
少しでもドキドキしてしまったことがなんだか悔しい。
「しかし、雅紀もすっかり大人な感じになったね」
「そりゃそうですよ。すっかり大人の男ですよ」
「髪がちょー明るい茶髪じゃないからかな?」
「髪型!?髪型だけの問題!?」
こんな風にふざけて話してると昔のことを思い出してしまう。
の彼氏だった頃の自分。
長い期間ではなかったけれど、が千葉の実家に遊びに来たり、ちゃんと翔ちゃんと松潤の運転で海に行ったりもして楽しかった。
みんなでお泊まり会して朝まで桃鉄したりもしたっけ。
またこんな風にまさか剛くんを交えて会う日が来るなんて想像してなかった。
「楽しそうじゃん」
さっきから煙草をくゆらせて喋ってなかった剛くんがようやく口を開いた。
チラリとへ寄越した視線が冷たいのはきっと気のせいではない。
やばい。流石に盛り上がり過ぎてしまっただろうか。完全に剛くんを無視して話してしまった気がする。
焦る俺をよそに、が剛くんの手から煙草を奪うと灰皿に押し付けてしまった。
剛くんの片眉がぴくりとあがる。
「舞台終わったからって煙草吸い過ぎ!ていうかこの前歩き煙草してたでしょ!?Twitterに写真撮られてあがってたからね!」
「……なんか健もそんなこと言ってたな」
「歩き煙草はイメージよくないからちゃんから言っておいてって頼まれたんだからね」
「誰に?」
「剛くんファンの友達にだよ」
「は?友達に俺のファンがいるの?」
「今はそこの話じゃなくて煙草の話だから。こんな金髪そうそういないから。誤魔化しきかないからね」
気をつけてよねー!雅紀を見習って!と最後に付け加える。
深いため息を吐いて剛くんは、まじ住みにくい世の中だなーとぼやいた。
それには俺も大きく頷く。
いつ誰かに写真を撮られてSNSに拡散されるかわからない。
現に剛くんは拡散されてしまったらしい。
「雅紀は人気者だから迂闊にデートもできないね。どうしてるの?」
「デート…?」
「うん。デート」
そういえばデートって最後にしたのいつだっただろう。
「とどこでデートしたの」
「はあ!?剛くんやめてよ」
「えっと……」
「あんたも言わなくていいから!」
剛くんは面白そうに笑っている。
内心動揺してしまったのはやっぱり俺だけなんだろうか。
今は特定の彼女というものはいなくて、こう言ってはなんだけどそういう事をしたくなった時に便利な子が何人かいる。
そういう子達とはデートはしない。
だから全然デートなんてしてない。
目の前の2人が楽しそうに話してるのを見て、自然と笑みが漏れた。
そして意地悪なことを言いたくなってしまった。
「俺、またとデートしたいな」
これは半分冗談で、半分本気。
剛くんが悪いんだよ。を連れてきたりなんかするから。
剛くんは眉間に皺を寄せたけれど、は何故か爆笑していた。
完全にジョークだと思っているんだろう。
楽しかったとのデートで覚えているのは観覧車。
曇りの日で白い空だったけれど、キラキラして見えた。
またあの観覧車にと乗りたい。
2016/10/19 18号