沈黙後の言葉
相葉ちゃんとすごく久々に直接会う約束をして、少し大人な焼肉屋さんの個室で食事をした。
翔くんは仕事が終わり次第合流すると連絡が来たきり音沙汰がない。
今熱いのは、相葉ちゃんの恋バナだ。
「いいなぁ好きな人が目の前にいるとうきうきするもんね」
「もー、ちゃんてば」
「だって会って名前呼ばれて胸がギューってなるんでしょ?それってとっても嬉しいよ」
「でもね、俺もなんかワー!って手放しにそうだとも思えないの!」
「相葉っちゃん…なんか大人になったのね」
相葉ちゃんのお酒が少し進んで、おしゃべりも饒舌になる。
「でも、落ち込んでたんだ」
「何かあった?何も聞いてないよ」
「森田くん、撮られてたんだって。週刊誌に載ったって」
「あ…そうなの…でもそんなの偶然かもしれないじゃない」
「俺もそう言ったよ!でもさ、そのことがショックでよく知らない男と飲みに行ってたんだよ?」
「え、それはあんまりっぽくない」
「そういう時助けてほしいって言われたら俺、なんて言っていいかわかんなくて」
「助けてあげたらいいじゃない」
「そう簡単にうんって言えないよ〜」
そうかぁとわたしは相槌を打って、焼けたお肉を口に運んだ。
ただ嬉しくて楽しいだけの恋愛は、一度終了して再燃しようとしても、一気には燃えないのかもしれない。
お肉はロース肉なのにとても柔らかくて、お口の中でとろーんとなくなってしまった。
相葉ちゃんが適当に頼んでくれたから、お代は見てのお帰りで。
少しだけお財布の中が心配だなぁとお茶を飲んでいたら、ようやく翔くんから返事が来た。
あと1時間くらいで到着すること、それと、その店高いからは出さなくていいよということ。
「お肉!おいしいね、やわらかい」
「うんうん、すっごく柔らかいね〜」
「うふふ、わたしたち食レポのお仕事できないね」
「あは!おいしければいいんだよー」
「相葉ちゃんは、のことは抱きしめたくならないでしょ?」
唐突な質問に目を丸くして、相葉ちゃんがわたしの顔を見た。
すぐに質問の意図を汲み取ってくれて、
「ちゃんは抱きしめるっていうかハグね!ハグだね!アメリカンな感じで」
「それが恋愛と友情の違いなのです」
「そうだよね、それはわかるよ!ちゃんは翔ちゃんとは変わらず?」
「うん。一時間くらいでこっち来るって。お肉たくさん食べておこう」
暗にあの人のことを聞かれたんだなと感じた。
気になる人がいる、かっこいい、どうしよう…とさんざん言っておきながら、接触を持った途端わたしは、相葉ちゃんにもにも、何も伝えていない。
あの日行きつけのお店に入ったところで英文が一言送られてきて、返事をするまでに何時間もかかった。
大層な時間がかかった末送った文章は
『我也這麼認為』
同じくそう思うということを伝える一言。
自分の考えは賭けでしかなかった。
日本語や英語で返したら、ナンパだったら引っかかったことになる。
中国語ならば、ナンパ氏は読めなくて相手にしてこないはず。
逆にあの人ならば絶対に中国語は読める。
多少文法なりが間違っていたとしても。
返信した文章はしばらく既読にならず、わたしはなかなか寝付けなかった。
翔くんが真夜中にタクシーで帰ってきて、わたしがまだソファに座っていたことに驚いていた。
そして「寝てなよ」と髪の毛をくしゃくしゃしてくれた。
くしゃくしゃされるのは好きな人からじゃないと許せないから、翔くんのこと、好き。
先にベッドに入って、ピカチュウの携帯を握りしめて寝た。
起きた時には、わたしより後に寝たはずの翔くんはすでに仕事へ行っていて、時間も午後近くになっていた。
握っていたはずの携帯は床に落ちており、LINEやメールに新着の表示がいくつかあった。
音もバイブもありにしていたのに気付かないくらい深く眠っていたらしい。
半分寝ぼけながら携帯を拾いLINEの画面を開くと、いくつかは仕事の内容。
もう一つ。
わたしが望んでいたもの。
『中国語は予想の斜め上でした。繁体字なのがいいですね』
絶対にあの人だ、間違いないと確信した。
迷いに迷った返信は、たぶん正解だったのかもしれない。
その後数時間、またわたしは返事を悩むことになる。
そして、早いときには数時間、遅ければ数日と間を空けながら、ポツポツとLINEのやり取りをするようになった。
内容は極めて普通。
わたしからはドラマを見たとか今日はこれを食べたとか何の面白みもないものを。
彼からはTwitterやInstagramに投稿されている写真だけがそのまま送られてくることもあるし、英文が一言来ることもある。
その時はわたしも一言だけ簡単な英語を返す。
『god bless』
どちらかがそれを送ったらやり取りはしばらくなくなる。
テンションの高いものではない。
何もない時間は沈黙に等しく、でもそれは決して嫌なものじゃない。
それでもすごく胸が締め付けられる。
相葉ちゃんに恋だよとさんざん言っておきながら、自分がこの事態。
一体どんな感情だろう。
いやたぶんあの人はわたしのことなど何にも考えないで、気の向いたときに一言送っているんだ。
その後、まだ顔を見ていない。
「え、肉残ってないじゃん」
翔くんが到着して残念がった時には相葉ちゃんもわたしもかなりお腹がいっぱいで、翔くんはぶつくさ言いながら追加のお肉を注文していた。
「翔ちゃん、こんな時間から食べると太っちゃうよ〜」
「少しくらい食わせてくれよ、めったに来ないじゃんここ」
「翔くん、わたしたちは先にデザートにするね」
「本当にマイペースだな君たちは」
携帯がブーッと震えた。
たぶんあの人だと直感で思った。
さっき一言だけ、今日は肉ですと送ったから、お肉が好きなあの人からに違いない。
急にそわそわしてしまう。
「ちゃんデザート何にするー?」
相葉ちゃんの質問にハッとなって、慌てて携帯をバッグに突っ込んだ。
察されてはいけない。
2016/11/10 6号