押さえ込んだ言葉
「焼肉……ずるい!!!」
開口一番怒られてしまった。
この前ちゃんと翔くんと三人で焼肉を食べに行ったと話したら、は口元を手で押さえて大袈裟に驚いてから泣き真似をしだした。
そしてどうして誘ってくれなかったのかと怒り出してしまった。
そう言われても、を誘ってしまったら、ちゃんの言う恋バナっていうのが出来ないし。
むくれているの機嫌をとろうと、だからこうしてそこそこ高いケーキが食べれるお店に来ているわけだし。
予想した通り日曜日の昼間なんて女性客ばかりで、男のお客さんは自分を入れて二人しかいない。
黒のニット帽と黒縁の丸眼鏡を掛けるくらいしかしてないから、変装という変装にはなっていない。
でも周りの女性客は目の前のフルーツが乗った宝石みたいなタルトに夢中で俺には気づいていないみたいだ。
「雅紀のおごりだよね?」
「何回も言わなくてもおごりだよ」
これで三回目の奢りの確認をしてから、がにっこり笑った。
笑顔を向けられるとくすぐったいような気持ちになってしまう。
「剛くんとはちゃんと話した?」
だから無理にその気持ちを抑える為に剛くんの話題を引っ張り出した。
この前の自棄になったようなはあれからおとなしくはしていたみたいだけれど、肝心な剛くんとどういう話をしたのかは聞いていない。
「私は剛くんが世界で一番好き」
「え。いや、それは知ってるんだけど」
「何があっても絶対嫌いになんかなれないし、むかつくけど結局好きに戻るし」
「ああ……じゃあ仲直りしたの?」
「してない」
全く理解が不能すぎて、眼鏡がずり落ちそうになってしまった。
剛くんが好きで、嫌いにはならないのに、仲直りはしていない。これは一体どういう事なんだ。
頭の悪い俺にはさっぱり分からなくて思わずニノに電話を掛けて、どういう事だと思う!?って聞きそうになるほどに分からない。
「週刊誌の言う事は全部ウソさって岡村ちゃんみたく言ってくれたらいいのに」
「え?何?おかむらちゃん??」
「でも剛くんはそういうこと言わないから」
「……言わなくても分かれってことだよね」
は頷いた。でもは剛くんの言葉で否定が聞きたいんだ。
そんなの気持ちもなんとなく分かる気がした。
「だからね、しばらく距離を置いてやろうと思って」
「えっ!!!」
思わず大きな声が出てしまって、近くの人からの視線が集まってしまい慌てて下を向いてメニューで顔を隠した。
「ごめん。びっくりして」
小声でに謝罪する。は別にいいよ、と笑った。
が注文したイチゴ、バナナ、マスカット、グレープフルーツ、オレンジがたくさん乗ったタルトが運ばれてきて、それを美味しそうに食べている。
なんだかこうしていると本当にデートしてるみたいだね、って喉まで出かかった。
前ににデートしてるかと聞かれて、デートらしいデートはしてはいって答えた。
とたまに会うようになってから、そういう事をするだけの女性関係とは全く連絡を取っていない。
向こうからお誘いは来るけれど、返事をする気にはなれなかった。
「おいしい?」
「おいしい!雅紀は食べないの?」
「うーん。じゃひとくちちょうだい」
がお皿とフォークを渡して来ようとするから、俺はそれを無視して口をあーんと開けた。
が怪訝な顔つきになる。
「なんの真似……」
「あーーん」
「え、無理」
「食べさせてくれないなら奢ってあげないよ」
「ひ、卑怯者……」
きっと剛くんとはこんなことやらないんだろう。
が耳まで顔を赤くしながら、フォークでタルトをすくってくれる。
「はい……」
「あーーん」
パクリと運ばれてきたタルトを口に入れると、フルーツの爽やかな甘さと、こってり甘いカスタードクリームがちょうど良い。
照れてるも可愛いなあ。
ぼんやり眺めていると、視線に居た堪れなくなったが、そういえばと口を開く。
「、変わったとこあった?」
「ちゃん?それがあんまりよく分からなかったんだよね。俺の恋バナは聞いてくれたけど、ちゃんの話はそういえばされなかったような」
「雅紀の恋バナとやらも突っ込みたいけど、の恋バナが無いのも突っ込むべきでは?」
「確かに!!しまった!!肉に夢中で……」
「バカ」
言われて、胸が苦しい。
にバカって言われるのが好きだ。
今ぼんやりと幸せを感じてる自分に自分で呆れながら、もうひとくちからタルトをねだるのであった。
2016/11/12 18号