ドキピー

イノセントガール

「なんで泣きそうな顔してたんですか?意外と見えてましたよ」


彼はわたしがライブに来るとか特に考えてはいなかったみたいで、でも客席のわたしを見つけてくれたらしい。
正しくは、見つけたのではなくて目に入ってきたから、とのこと。
ライブに遊びに行ったら、わたしの席はファンクラブの枠で取ったおかげでとても良い席で、一体をおばさまに囲まれてその時間を過ごすことになったのだ。
そんな感じだと、年齢的なことで目立つから自然に目に入ったのだと。


「確かに途中で少し泣いちゃったけど」
「how」
「なんかもう、手放しではしゃげなくて」


瞬間そのときことを思い出して少し切なくなった。
こういうときにわたしの感情はとても言葉が少なくなり、少なくなるからこそ相手にダイレクトに伝わってしまう。


「ほんと、来るなら言ってくれれば良かったのに」
「いいの。本当は後になってから、行ったって報告するくらいの気分だったんです。なんかね、周りの人に話しかけられたんだけど、わたしのお母さんより年上で。年聞かれて、ディーンさんより下って言ったらそういう若いファンが増えるといいって言ってました」
さんは未だに僕のファンなんですか?」
「えっ?」


ダンスを見せてくれたり声が裏返ったり、あとはとんでもないハプニングもあってそういうところが素直な言葉として表すと愛しく感じて、生まれて初めて本当に神様に十字をきって祈りそうになった。
なんでこの人のことをわたしは好きになって、物事は万事はうまくいかないんですか?って。
周りはキャーって盛り上がっていて、でもわたしはその盛り上がりに乗っかるどころかただ彼を見つめるしかできなくて1人で空間に取り残されそうになっていた。


「だってかっこよかったもん」
「あんまり褒めないでください。今回反省点だらけなんだから」
「All's well that ends well」
「そうは言っても」
「ハプニングもファンは喜ぶものです」
「予定を意識しすぎですかね」
「どうかなぁ。でも、天然な感じがひしひしきました」
「天然じゃないから。話変わりますけどさんは彼氏をほったらかして僕とご飯を食べていて大丈夫なんですか?」
「忙しいみたい。平昌オリンピックでキャスターのお仕事」
「なるほど」


そういう問題ではないけどここはお互いさまかな、と彼は奥深い瞳で笑った。
火鍋に行きたいと改めて伝えたら、今ならお腹すいてるので、と意外なくらいあっさり承諾してくれて、とんとんと出かけることになった。
仕事合間であまり時間がないので食事だけです、とよくわからない念押しをされて。
肉を口に運ぶ姿を見ているとステージの上の彼と今ここにいる彼が重なり、しきりにぶれてはまた重なってを繰り返す。
あまりに強く見つめてしまっていたみたいで、食べないのかと聞かれてしまった。


「あなただけしか見えないの」


彼は顔を上げて、顔色を変えずに肉を促す。


「僕毎回思うんですけど、あれ、なんで最後のブレスでみんなちょっと笑うんですかね」
「それわたしも思ってた」
「肉。止まってますよ」


なかなか箸を動かさないわたしに、ついに彼は肉を取り分けてくれた。


「ねぇ、わたしってそんなに食いしん坊キャラですか?」
「食べたくて誘ったんでしょ?全部食べちゃいますよ」


なんでこういうことしてくれるの。
だから勘違いしたくなってしまった。
本当は人は一途がいい。
一途に人を愛して、愛した人をずっと想って、思い続けてそれで死ねたらいいのに。
でもその出来上がった気持ちの隣には、すでに今暮らしているラインができあがっていたら?


さんは、僕から見るとファンとは少し違うんだなぁ」
「なんですか?」
「なんていうか」


店内少し暑いですね、と前置きをしてから彼は一瞬難しい顔をした。


「なんていうか。うまく言えないけど、こうしてご飯にも来るようになったわけだし。とても、大事な」
「大事な」
「うーん。ぱるるとも少し違うし…いや、やっぱりうまく言えないな」
「あの。それってわたしにとってはドレミと同じなんです」
「そういうことにしておきましょうか」


たとえラインができあがっていても、新しく生まれた気持ちに嘘はないもの。
どうやって、恋とか愛としての好きですという言葉を使わずに気持ちを素直に伝えればいいのだろう。
隠しきれなくなった今、拒まれない限りわたしはそれを考えると思う。




2018/2/13 6号