ドキピー

「届かなくてもいい」なんて嘘

5大ドームツアーの幕が開いて初日は札幌からだった。
札幌に行くとに話したら、お土産よろしく〜と連絡が来た。
言われなくても買うつもりだったし、お土産を渡すという口実で会うこともできるよなぁ、なんて思ったりもした。
ちゃんには、ロイスのポテトチップのチョコがけのやつにして、は六花亭のバターサンドが昔から好きだったからそれにした。
後は、剛くんも甘い物が好きだから、何か買っていく。
剛くんは顔に似合わずふわふわした甘いものが好きだ。
一緒にご飯に行くと必ず最後にデザートを頼むから、最初はびっくりした。
そんな剛くんと東京に戻ったらご飯に行く約束をしている。
正直なところ、今剛くんと会うのはなんだかつらい。
もしもの話題なんか出てしまったら、平気な顔をして聞いていられるだろうか、なんて心配をしてしまう。
札幌公演を終えてにお土産をすぐに渡したかったけれど、なかなかタイミングが合わずその機会は訪れなかった。
ちゃんとはお互いの仕事の合間に会うことができて、渋谷で待ち合わせをした。



「はい、これちゃん好きかと思って、ロイス」
「あいばっちゃんありがとー!帰ったら早速食べるね」
「翔くんに渡してもらった方が早いかと思ったんだけど」
「あいばっちゃんからのお土産だもん。あいばっちゃんから貰いたい」
「そういうもん?」
「そうだよ」
「……となかなか会うタイミングなくてさ、お土産ちゃんから渡してもらった方がいいかなって思ったんだけど」
「それはダメだよ!もきっとあいばっちゃんからほしいよ!」
「それは……ど、どうかなぁ」
「イイ感じだったんでしょ?この前」


イイ感じだったか、と言われれば、イイ感じだったと思う。
でもそれからツアー前だったのもあって忙しくて、そんなマメに連絡をしたくても出来なくて、もどかしかった。
がどうしているか、剛くんとどうなったのかが気になってしかたがなかった。


「あいばっちゃん、はあいばっちゃんを応援してるからね」
「ありがと。ちゃん」
「そんなあいばっちゃんに朗報だよ。がなんと今から来れるって」
「え!嘘!!まじで!?」
「よかったね。にお土産渡せるね」


ちゃんがウィンクひとつしてにっこり微笑んだ。
本当にちゃんにはいつも感謝しかない。
色んなことの相談に乗ってもらっているし、いつも俺の味方でいてくれる。
だから俺もちゃんの味方でいたいし、何かあったら力になってあげたい。


ちゃん、いつでも相談に乗るからね!」
「えっ!?何の!?」
「最近俺の話しばっか聞いてもらってるから」
「それならもお寿司行きたいな」
「え……まさか聞いたの?」
「聞いたのです」


嵐プラスちゃんと銀座で寿司……これは相当な金額になりそうだ。
嫌だと言うことはできず、いいよと返したらちゃんは喜んでいた。
それからちゃんはと2人きりにしてあげるからね、と言って帰っていった。
まさかに今日会えるなんて思わなかったから、心の準備ができていない。
何回か深呼吸を繰り返す。
そうしてちゃんが帰って20分くらいしてからがやってきた。
仕事帰りのは会社員らしいベージュのトレンチコートを着ていて、ちょっとそれが新鮮だ。


「大丈夫なの?」


開口一番にそう言われて、何が?と返した。


「こんなとこで」


こんなとこ、というのはここが渋谷で且つ、隠れが的な場所の喫茶店でもなければ普通のチェーン店だからだろうか。
でも今日はさすがに深めにニット帽をかぶってるし、黒縁伊達眼鏡も装備してるし、なんならマスクだってある。
それにさっきまでちゃんときゃっきゃうふふで喋ってたけど全く問題なかったと言ったら、は呆れていた。


帰っちゃったんだね」
「う、うん……見たいテレビがあるって言ってた、かな」
「へー……なんだろ」
「あ!ねぇ、ちゃんと買ってきたよ。六花亭」


どん!とテーブルに袋ごと置いたら、はすぐさま嬉しそうに袋の中を覗き込んだ。


「やったー!しかも10個入り!でかした!」
「お褒めに預かり光栄です」
「私これ大好き」
「ね。知ってる」


そう言ったら、の表情が一瞬固まってしまった。
何かまずいこと言った?


「びっくり。憶えてたんだ」
「え、憶えてたよ。じゃあなんでこれ買ってきたと思ったわけ?」
「たまたま。偶然かと思った」
「そんなわけないでしょ」


なんとなく、気まずいような空気が流れてしまった。
のことが好きだとちゃんに打ち明けてしまったせいで、やたらと緊張する。
何か話さなくちゃと思って口を開こうとするんだけど、頭の中がわーーってなってなかなか言葉が出てこない。


「札幌どうだった?」


が話題を振ってくれた。
本当はこんな世間話をしてる場合じゃないのに。
今の気持ちをに伝えたいのに、もどかしい。


「札幌ね、うん……寒かった!」
「そりゃそうでしょ。あ、うちの会社が札幌に新しく事業所立ち上げるんだけど、札幌に興味ないかって聞かれたよ」
「えっ!?!札幌に行くの!?」
「まさか!私が寒いの何より嫌いなの知ってるでしょ」
「ですよね。良かった……」


が遠くに行ってしまうかもしれない、と考えただけで心臓が押し潰されそうになった。
気がついたらテーブルの上にあったの両手をぎゅーっと握っていた。
相変わらず指先が冷たい。


「ちょっと、雅紀?雅紀くーん……どうしたのかな?」
「あのね、会いたかったよ」


札幌に行ってから今日まで本当に会いたくて毎日考えていた。
剛くんがいるのに、とかそういう事ももちろん考えてたけれど、に会いたい気持ちの方が勝ってしまった。
俯いていた視線をへチラリと向けたら、も下を向いてしまっている。
困らせたいわけじゃなかったけれど、振り払われなかったから重ねた手はそのままにした。
もうすぐ仕事に戻らなくちゃいけないから、せめてもう少しこのままで。
心の中で、好きだよと呟いた。




2016/11/25 18号