後ろめたい夜
ギアをニュートラルにね…
相葉ちゃんから北海道土産にもらったチョコがけのポテチを食べながら、わたしはひたすら嵐のコンサートDVDを見ていた。
今わたしはどうしてもテレビを見ていればドラマにCM、または移動時に聴くCD等全てあの人に偏ってしまう。
それをニュートラルに戻すのならば、強引に、好きになった頃の翔くんを見ればいいじゃない。
我ながら良い考え。
思えば翔くんのことを好きになった時もときめきが強すぎて、今までにないくらいに高ぶった。
その気持ちもすごく長いこと維持していたし、今だって仲良しだし、間違いなく翔くんのことは好き。
わたしが仕事を変えた時も、体調が悪い時も、収入が少なくて困る時も、すごく助けてもらっている。
テレビの画面の中ではえらく若い翔くんが激しくラップをしていた。
ちょっとお間抜けで、それもすごく好きだと思っていた。
「え、何見てんの?」
背後から声がして、わたしは振り返っておかえりと言った。
翔くんは仕事でお疲れ気味の様子。
ただいま、と言いながらソファのわたしの横に座り込む。
ソファの沈み込む体感的な感覚。
「いつのだよ…何、急に」
「うーん、昔の翔くんを見ようと思って」
「どういう風の吹きまわし?」
「コンサートで忙しそうだから、コンサートのDVD見ようかなって」
「それにしたって古くね」
「この頃痩せてるねー」
翔くんは苦虫を噛み潰したような表情をして、まぁねと答えた。
そしてここで思ってしまう。
あの人はすごくトレーニングをしていて、映画のために体を大きくしたりもするらしい。
ダメだ、比べてはダメだ。
翔くんは翔くん、あの人はあの人。
2人とも食べるものも違えば、生き方が違うのだ。
袋からポテチがなくなったのを見て、あっと翔くんが声を上げる。
「全部食ったの?」
「え!あっ、食べちゃった」
「俺が買ってきた白い恋人は」
「ま、まだ残ってるよ…少し…」
「夕飯は?」
「食べてない」
「お菓子をメシの代わりにするのはダメだって言ってるじゃん」
「だってー」
本当はちょくちょく外食している。
あの人に会えないか、ばったり遭遇できるタイミングはないか。
同じ場所に行って、少し携帯をいじって時間を潰して、結局あの人とは遭遇しないでごはんだけ食べて家に戻る。
あの人とのLINEは、どちらから発信するかは五分五分くらいなのである意味対等だ。
ただその続きのやり取りのペースはかなり握られている気がする。
誰にも言えない。
相葉ちゃんにこの間、いつでも相談に乗るからねと言われた。
確かに最近は相葉ちゃんからに関することを聞いて…とはちょっと会ってないから、そろそろ遊びたいなと思う。
が今付き合っている森田剛とその後どうなっているのか、わたしもちょっとは気になる。
だけど2人に、自分のことはどう考えても言えない。
翔くんは家の中でわたしと一緒にいる時タバコに少し気を遣って、最近は寒くてもベランダで吸うようになった。
夜風はもう冷たくて、別にお部屋の中で吸ってもいいよと言ったけれど、どうやらニオイのことを気にかけてくれているらしい。
せっかくお風呂に入ったのに髪が臭くなったら申し訳ないと言われた。
今更だな。気にしなくてもいいのにね。
携帯に、1枚の画像が届く。
ドキッとしたけれど翔くんは外のどこかを見ながら一服中だ。
あの人はどうやら今夜、ドラマの撮影らしい。
青いスーツの足元だけ写っていた。
青はあの人のラッキーカラー。
翔くんにあてがわれた色は赤。
ちょうど反対の色。
『Stay warm!』
急いで一言だけ返信した。
あの人はどちらかというとさらっとしたカジュアルなやり取りの方が楽そうに感じる。
それにその方がわたしの好意もどしっと伝わってしまうことがないので、どちらにしろ双方それでいいはず。
そして無理なのはわかっているけれど、どうにかマルチリンガルなあの人についていきたい。
「翔くん」
「うん?」
タバコを吸い終わって、灰皿を外に置きっ放しにして翔くんは部屋に入ってくる。
ふわりと香るニコチン、タール?
わからないけれど男の人のタバコっていう感じ。
「なんか、ちょっぴり気分が悪い」
「え、熱とかある?」
「微熱あるっぽい」
「ダメじゃん夜更かししてたら。先寝てていいよ」
「だっこして」
「何年たっても甘えんぼだな、は」
「ベッドまで連れてってくれる?」
「ベッド行ったら、違うことしちゃうよ」
「ん…いいよ」
これで心は中立になった?
全然わからない。
背中にぎゅっと抱きついたら、翔くんはよしよしと頭を撫でてくれた。
2016/11/29 6号