これが最後の選択肢
年の瀬が近づいてくると歌番組の仕事が増える。
加えて嵐はツアー中でもあるから、余計に最近は5人で一緒にいる時間が多い。
今日も翔くん司会の歌番組に出演する為幕張メッセに来ていた。
リハーサルも終えて待機の時間になると翔くん以外のメンバーを連れて実家へ帰るのがお決まりになっている。
実家の自慢の餃子をみんなで食べて、お茶をすすりながら談笑しているとしみじみ平和だなぁ〜と、ほっこりしてしまう。
「今年も美味しかったね」
と、にこやかな笑顔なのは松潤。
「ビールも飲めたら最高なんだけどなぁ」
なんて、すぐビールを飲みたがるのはリーダーだ。
「長野くん結婚したね」
と180度違う話題をぶっ込んできたのはニノ。
そう。長野くんが結婚した。ニノがその話題を出すと、いやめでたい。良かったね。とみんなで長野くんの結婚を祝福した。
「結婚かぁ〜すごいなぁ」
と、素直な感想を零すと、ニノがみかんの皮を丁寧に剥きながら「あんたそんな呑気なこと言ってていいの?」と厳しめの口調で尋ねてくる。
「えっ、なにがなにが?」
「長野くん結婚したんだよ?剛くんだって結婚するかもしんないよ」
「ひっ!!」
そうだ。剛くんだってもしかしたらとの結婚を考えているかもしれない。
そういう話を飲みの席でしたことはないけれど、家族想いの剛くんのことだから結婚願望はゼロってわけでもない気がする。
「どうしよう!と結婚しちゃったら!!」
文字通り頭を抱えた。
この前渋谷でお土産を渡すのにと会って以来、もちろんその後会うことはできていない。
LINEのやり取りはまあまあできている。
『今度うちに遊びに来なよ』とあの日に送ったら『気が向いたらね』という返事が来て思わずニヤけてしまった。
行かないっていう返事が来てたらきっと落ち込んでいたと思う。
でもその後は二人して核心には触れないというか、何事もなかったようなやり取りしかしていない。
『剛くんとその後どう?』って何回か送ろうとしては消しての繰り返しで、結局聞けないままだ。
「気になる?やっぱ気になっちゃう?」
みかんをもぐもぐ食べながらニノが言うので、俺はこくこくと頷いた。
そりゃあ気になるに決まっている。
「そんな気になるならもう本人に聞いちゃえばいいじゃん」
「本人て……剛くん?」
「そう。幕張メッセ行けばいるんだからさ」
「……いやいやいやいや!それは無理でしょ!ね!?松潤もリーダーもそう思うよね!?」
お茶をすすっている二人に勢いのままに同意を求めると、二人は顔を見合わせてから、「聞いてみたら」という全く俺が望んでいない答えが返ってきたので、心の中で翔ちゃん助けて!と叫ばずにはいられなかった。
そして、ほどなくして幕張メッセの控え室に戻ってきた。
剛くんにとのことを聞くなんてできるのだろうか。
二人で飲みに行く時は仕事のこととかゴルフの話とか、たわいもない話ばかりで恋愛トークなんてしたことない。
よって、の話題を振ったことは一度もない。
ぐるぐるとそんな事を考えていたら、V6の控え室の前に到着してしまった。
ここへ来たのはうちの実家の餃子を長野くんに渡す為なのが一番の理由だ。
あれだけ煽っておいてニノはゲームをするから留守番すると言う始末。
小さくため息を吐いて、意を決してコンコンとドアをノックしてからノブを回した。
「失礼しまーす。相葉でーす……」
ドア半分から顔を出すと、中に居たのは幸か不幸か健くんと剛くんの二人だけだった。
「あれぇ〜?相葉ちゃんどしたの〜」
「うちの実家の餃子を長野くんに持ってきたんです」
「いいなあ!あ、長野くん今ねどっかいってるから、ゆっくりしてってよ」
「や、でも……」
「ね!いいよね!?剛!」
健くんが剛くんに同意を求めると、ゴルフ誌から顔をあげた剛くんは「座れば」と椅子を勧めてきた。
こう言われては断ることもできず、椅子に腰をおろした。
健くんが嬉しそうに隣に座ってくる。
「剛がぜんっぜん構ってくれなくて暇だったんだよね〜」
よっぽど暇だったのだろう。
健くんは矢継ぎ早にしゃべりだしてその間俺は相槌を打ったり、時には笑ったりしながらつい剛くんを観察してしまった。
ゴルフ誌を読みながら時折テーブルの上に置いてある携帯を見て、メールの返事をしているような動作をしている。
かも。と連絡取ってるのかも……と思ってしまって、ちくり胸が痛い。
はっきり考えないようにしていたけれど、こんなこと考えてしまう自分というのが嫌で、目を背けていたけれど、ダメだ。考えてしまう。
あのままと剛くんが距離を置いてふたりが別れてしまえばいいのに。
と、考えたところではっとして、瞬時に反省する。こんな考えは消さなくっちゃ。
いくらなんでもそんな事考えるなんてにも剛くんにも悪い。
「相葉ちゃんどした?あ、もしかして今からもう紅白緊張してんの?うちの井ノ原くん前回司会してるからアドバイス貰ったらいいよ」
ぼけっとしていた俺が紅白の司会に緊張していると思ったらしく、健くんが笑いながら背中をばしばしと叩いてくる。
「流石に今からは緊張してないですけど、二人はどうなのかな?って思って」
心拍数が上がる。触れたことない話に触れようとしている。
「長野くんが結婚したから、二人は結婚とかどうなのかなぁ〜って思って」
ついに言ってしまった。
「え!?俺はねぇ、やっぱりアイドル現役だから今はそういうの考えてないなぁ。剛は?」
健くんから話題を振られた剛くんは、面倒くさそうに顔をあげると、俺へと視線を寄越してきてドキリとしてしまう。
「微妙だなぁ」
が、予想外の答えが返ってきた。
てっきりわりと前向きな返答が来るんじゃないかと覚悟していただけに、この答えはびっくりだ。
俺がなんで?と聞くまでもなく健くんが、なんでなんで!?なんで微妙なの?と代わりに尋ねてくれている。
「最近あいつ拗ねてんだよ」
「拗ねてる……と、言いますと?」
つい食い気味に質問してしまった。
剛くんが眉根を寄せる。
「……待て。なんでこんな話しなきゃなんないんだよ」
「いいじゃないですか!たまには!ねえ!?健くん!」
「そうね。たまにはいいじゃん聞かせてよ」
「やだ。絶対やだ。特に健に聞かせるのがやだ」
こうなってはもうこれ以上のことは聞き出せない気がした。
剛くんの話ぶりから察するにとの関係性は100パーセント改善したとは言い難い。
そして剛くんとが結婚することもすぐにはないと分かってほっとする。
これで安心して歌番組に臨めそうだ。
ぎゃーぎゃーと健くんと剛くんが言い合いしているところに、嵐の控え室に戻ります、と告げて後にした。
ドアを閉めてほっと一息ついてから携帯を開くと、LINEの件数がすごいことになっていた。
54件。何事かと思って開くとそのうち41件が嵐のグループLINEだ。
『相葉ちゃんV6の楽屋いったー!』
『がんばれ!相葉ちゃん!』
『は?なんで!?何が起こってんの?俺置いてけぼりなんだけど』
『後で説明するから。翔くん司会がんば!』
『すげー気になって集中できないんだけど』
などなど。勝手な事を言ってグループLINEは盛り上がっていた。
それからちゃんからも来ていた。
『新曲歌うんだよね!楽しみだよ』
ちゃんにはすぐに返事を返す。
それから残るLINEを確認すると、からのメッセージも来ていた。
『ちゃんと見てるよ』
それだけだっていうのに、とても嬉しくて、やっぱりのことが大好きだ。
好きな人に見ていてもらえるのがこんなにも嬉しいなんて。
だからついつい調子に乗ってしまった俺は『のために歌います』と送ってしまった。
ちょっと直球すぎるかな?と思ったけれど、もはや気持ちが抑えられそうもないからと開き直る。
ドキドキする心臓を落ち着けなければと、走って嵐の控え室へと急いだ。
2016/12/7 18号