ただ声が聞きたいだけ
落ち着かない31日を過ごしていた。
雅紀の部屋へ行った翌日から私は剛くんのところに連泊していた。
ひとりでいると雅紀のことばかり考えてしまいそうだったし、これ以上気持ちが大きくなるのが怖かったから。
剛くんは好きなだけ居ればいいと言ってくれてなんだか妙に優しくて胸が痛くなった。
そして今日朝早くに紅白へ行く剛くんを見送ってから、私はずっと落ち着かない。
ここ数日は剛くんと一緒に居たから、携帯もあまり見ないようにしていたけれど、忙しいのか雅紀からの連絡はなかった。
勝手な物で連絡が無ければ無いで少し腹がたつ。
だから私も意地になって連絡しなかった。
でも今日は一年最後の日で、雅紀の大役の日でもあるわけだから、連絡をしたい気持ちが強い。
何度もLINEの画面を開いては、忙しいだろうし送ったところで見ないかもと思って閉じてしまう。
やっぱりひとりでいるとこんな事ばかりになるから困る。
その間剛くんから連絡がきた。
帰るのが朝方近くになるってことと、お雑煮が食べたいってこと。
もうお正月のことを考えているなんて気が早い。
剛くんのキングサイズのベッドにごろりと寝転がって返事をしようとしたら、待ちに待っていた雅紀からLINEが来た。
思わず起き上がってしまう。
それからすぐに電話がかかってきた。
「雅紀?」
「良かった、出てくれて。あんまり時間ないんだけど」
「うん」
声を聞いたら目の奥が熱くなる。
普段の間と、普段の声と、普段通りの雅紀が私はとても好きだ。
気持ちが大きくなるのが怖かったから連絡を取らないでいたのに、それは逆効果だったみたい。
もう確実に育ってしまっている。
雅紀の声を聞いているとドキドキするってきっと知らない。
ラジオも実はあれから毎週聴いてることも言ってないから知らないだろうし、言ったらきっとびっくりするだろうな。
「どうしよ!ちゃんと出来るか不安で」
「大丈夫。やれば出来る子だって知ってるからきっと大丈夫」
「えー!ほんと?でもの声聞いたら落ち着いてきた」
それはこっちの台詞で、ここ数日ずっと抱えてきたもやもやとした気持ちが溶けていくのを感じる。
こんなの小学生でも分かる。
どう考えても雅紀は私のことが好きで、私も雅紀のことが好きだ。
この2ヶ月ですっかり私は雅紀のことしか考えられなくなってしまった。
家に行ったのだって、別にそういうことになっても良いと思ったからだし、実際はそういうことにはならなかったので少しホッとしたのだけれど。
「ちゃんと出来たらさ、俺のお願い聞いてくれる?」
「え……内容による」
「の時間を1日ちょうだい」
悩む理由としては剛くんのことがあるけれど、私はもうそのお願いを拒むことなんて出来るわけがない。
誕生日の日に抱きしめられたこととか、家で頬にキスされたことを思い出すと心臓のあたりがきゅーっとなって苦しい。
「いいよ」
「ほんと!?やった!じゃあもう行くね」
「うん。がんばって」
「がんばる。俺がんばる。ちゃんと見ててね」
「まかせて!いってらっしゃい」
電話を切った後心臓の音がすごくうるさい。
このまま剛くんと付き合ったまま雅紀を好きでいるなんて許されることじゃない。
でも週刊誌の件のせいで、剛くんの方が私以外の誰かと会ったりしているんじゃないかって思う。
そう考えると悲しくて泣きたくなる。
いやもうそんな事を考えるのはやめようと被りを振った。
それから紅白がはじまって私は最初から最後まで本当に目を離さずに見た。
お風呂も食事もはじまる前に済ませて、合間にとLINEをしたりして。
剛くんも終始ニコニコしていてすごく機嫌が良さそう。雅紀に仲良しの微笑みを向けたりしている。
きっと私の気持ちが雅紀に向いているなんて気づいてない。
雅紀の司会ぶりは心配して損したレベルですごくしっかりしていた。
ナレーションもすごく聴きやすくて、いつのまにこんなに出来るようになったんだろう。私が見ていなかった間にたくさん努力をしたんだろうな。
きっと終わる頃には極まって泣くんだろうと思ったら案の定泣き出す始末。
気づいたら私も泣いていた。
知らない間に立派になっていた事とか、こんな時素直に涙を零してしまう昔と変わらない雅紀に胸がいっぱいになった。
テレビのチャンネルを剛くんが出る方に変えて、ぼーっとしているうちに日付けも変わって、毎年恒例の新年の挨拶と共に光一くんのお誕生日が祝われている。
と新年の挨拶をLINEでやり取りして、『相葉っちゃんから連絡あった?』と聞かれたので、『はじまる前に電話がきたよ』と正直に答えるとやけにテンション高めの嬉しそうな返事がきた。
それから私達の間で藤ヶ谷くんが熱いので、ウィンクが良かったとかそういう話もしたりした。
もうすぐ番組も終わりそうな頃に、携帯が鳴った。雅紀だ。
「もしもし、相葉です」
「あ、はい」
「負けちゃったよ」
「私との中では優勝だよ」
「うそ!じゃあ、あの約束いいの?」
「良いに決まってるじゃん」
「じゃあ今から会える?」
それはすごくすごく予想外願いだ。
会ってあげたいのは山々だけれど、剛くんが朝に帰ってきてしまう。
でも雅紀とした約束は1日の時間をあげること。
「嘘だよ。今からは流石に無理だよね」
「いいよ、行く」
「えっ!?本気?」
「うん。家で待ってて」
新年早々慌ただしい幕開けになってしまった。
2017/1/3 18号