ドキピー

今日は離れてやらない

「それで、は相葉っちゃんに会いに行くことにしたのね!!」


年季が入って白が灰色がかってしまっているスヌーピーのぬいぐるみを抱きしめながら、が目を輝かせている。
年末から年始にかけて起きた出来事を報告がてら櫻井家にお邪魔していた。
櫻井家といっても家主は不在で、彼女であるしかいない。
雅紀に1日時間を頂戴と言われて、会いに行くことになったあたりまで話した。


「そ、それで、相葉っちゃんの家に…行ったのね!?」
「行った……千葉の方の」
「えっ!待って!千葉……それって」
「うん。実家の方ね」
「まさかの!!」


が驚くのも無理はない。私だって雅紀のマンションに行く気だった。
雅紀は毎年恒例である事務所の初詣に行かなくてはならないから、ゆっくり準備していいよと言ってきた。
剛くんには何て言おうと散々悩んだ結果、無難に実家に呼ばれてしまったからと連絡を入れた。
約束の時間に雅紀のマンションの近くにあるコンビニで待っていたら、サングラス姿の雅紀が現れて、手招きされるままついていくと車が停めてあるから驚いた。


「えっ!?どっか行くの?」
「イエス!千葉!」
「まさかと思うけど……」
「母ちゃんもに会いたがってたからさ」
「いやいやいやいや、おかしい」
「おかしくないよ。はいシートベルトして。出発しまーす」


と、いうわけで私はそのまま千葉にある雅紀の実家へと連れていかれた。
車の中はエンジン音しか聞こえない。
疲れて眠いだろうに運転させているのが申し訳なくなる。
変わってあげたくても変われないんだけど。


いつも寝てる時間でしょ。寝てていいよ」
「いい。起きてる。雅紀を差し置いて寝れない」
「無理しちゃって〜」


横顔をチラリと見ると楽しそうに笑っていたから安心した。
数時間前は泣いていたみたいだから心配していたけれど、思ったより大丈夫そう。


「相葉っちゃんの実家で寝たの?」
「うん」
「相葉っちゃんのお部屋で?」
「うん」
「一緒に?」
「まさか!!!」


流石に、付き合ってもいない人の実家で同じ布団では眠れない。
いや実家に限らず、付き合ってもいないのに一緒には寝られない。
雅紀がベッドを勧めてきたけれど、そこはやっぱり遠慮しておいた。
一緒に寝ようと軽率に言われたけれど、それも秒でお断りした。
9時頃雅紀に起こされて、すごく久しぶりにお母さんとお父さんに挨拶をしておせち料理をご馳走になってしまった。
なんとも意味のわからない元旦。
私が雅紀と付き合っていた時はまだ雅紀はこの実家に住んでいて、よく遊びに来ていた。
弟も居て、その弟がもう結婚して子供までいるというのだから、月日の流れに引いてしまう。
仲良い後輩とか、友達だと公言している風間くんとかも最近は実家に連れてくるのよ、とお母さんが話してくれた。


「それで実家でご飯をご馳走になって帰ってきたの?」
「それがね、その後カルタとかwiiとか散々遊びに付き合わされて、夕方くらいに東京に戻ることになったの」


おせちの残りとか相葉家特製の焼くだけ餃子とかをたくさん持たされて、私と雅紀は相葉家を後にした。
たくさんゲームをしてお腹痛くなるくらい笑って遊ぶのは久しぶりで、なんだかんだ楽しんでしまった。
雅紀のマンションに着く頃は陽も落ちていて、薄い三日月が夜空に浮かんでいた。
二度目の訪問は、ニノの姿はなくて安心した。微妙にあの一件はトラウマになっている。二宮和也許すまじ。


「それでお願いなんだけど」


部屋にあがるなり、振り返る雅紀が真面目な顔をして見下ろしてくるので、思わず半歩下がってしまった。
雅紀のお願いは、疲れて眠いから一緒に寝てほしいというものだった。
私も雅紀と少なからず一緒にいたいと思っているからここに来たわけで、付き合っていないのに一緒に寝るなんてありえないけれど、色々と自分に言い訳をして今回に限り一緒に寝てあげることにした。
年末からずっとがんばってきた雅紀のお願いだから叶えてあげることにした。


「寝たのね!結局!」


灰色がかったスヌーピーと共に前のめりでに詰め寄られて、下を向いて私は頷くことしかできない。


「分かってると思うけど、本当に添い寝しただけだよ。3秒で爆睡だったよ彼」
「そっかぁ……相葉っちゃんお疲れだったもんね。好きな人の寝顔見るとほんわかしない?」
「まぁ…可愛かったけど……え?は翔くんの寝顔見て未だにほんわかしてるの?」
「やだー!昔の話しだよー!」


そうだよね。私も昔は剛くんの寝顔が間近にあるだけでずっと見ていたくて眠れなかった。
が飲み物おかわり入れてくるね、と立ち上がったので、なんとなく手持ちぶたさで部屋をきょろきょろ見回すと、不思議な物が目に留まった。
緑色の小さいプランターのような物。
何だろうとそれにずずいと近づいてみると、丁度そこに飲み物のおかわりを持ってきたが戻ってきた。


「あ、ねぇこれなに?」
「あっ!それね、パクチーの栽培キットだよ」


がそのパクチーの栽培キットとやらを持って行ってしまう。
付き合いはなかなかに長いけれど、パクチーを育てるほど好きだっただろうか。


「育てるの?」
「うん。育てようかなと思って」
「まだ開けてない感じだったね」
「これからやろうかなって」
「そっかあ。私パクチー食べたことないかもしれないんだけど……?」
「え!?」
「顔赤くない?大丈夫?まだ熱っぽい?」


はつい最近までインフルエンザで熱にうなされていたらしいから、心配になってしまう。
は微熱少女ね、と笑っていたけれど何となく感じた違和感はなんだろう。
私の気のせいかもしれないけれど、何か引っかかるような気はした。


「それにしても、相葉っちゃんとすっかりラブラブでは嬉しいよ」
「事態はそんな単純なものでは……」


実家に帰らなくちゃいけないと剛くんに連絡したら、剛くんもそれなら埼玉の実家に顔を出してくると連絡がきた。
それから何となく罪悪感がひどくて会いに行けてないままだ。
でもそろそろ会いに行かないと流石にいつもの私じゃないと思われてしまう。
櫻井家をお暇した足でそのまま剛くんに会いに行こうと決めた。




2017/1/5 18号