痛みを伴う予感
剛くんは特にこの前のことを問い詰めてきたりはしなかった。
剛くんが帰ってきたら一緒にお雑煮を食べるはずが、私は別の男に会いに行ってしまったのだ。
剛くんが好きで好きで仕方なくて毎日剛くんのことばかり考えていたあの日の私がもしこの事を知ったら、開いた口が塞がらないだろう。
三連休は剛くんの家に泊めてもらうことにした。
一緒にテレビを見たり、車で剛くんが良く行く洋服屋さんに連れて行ってもらったり、ご飯を食べに出かけたり、至って普通に過ごした。
その合間に何度か雅紀とLINEのやり取りをして、その度になんともいえない気持ちになる。
剛くんと一緒にいてこんな気持ちになるのははじめてのことかもしれない。
月曜日の祝日のお昼は近所にあるハンバーガー屋さんでランチをすることにした。
昔はあまり外でご飯を食べたりしなかったけれど、数年前から人目があまり気にならなくなったみたいで、ここ最近は外で済ます機会が増えた。
「記事になってたね」
「どれ?」
コーラのストローに口をつけて顔をあげる剛くんは、相変わらずの黒目がち。
その目がとても好きなんだけれど、今はその目で見られると心の内が見透かされるんじゃないかと思ってしまう。
だから、すぐに私はその視線から逃げるように目線を下げた。
「後輩を叱った話」
「あれかぁ。別に言うほど怒ってないけど」
「そうだと思ったけど、でも剛くんが怒って探してるなんて普通に怖かっただろうね」
「なんでだよ。優しさなんだよ」
そう。剛くんはとても優しい人で、器の大きい人だって私の友達が言っていた。
後輩を叱ったのだって、長野くんが話している事を何度も何度も聞き直してくるからそれに対してのこと。
長野くんが同じ事二回も話さないといけないだろ。ちゃんと聞けって注意したという話しだ。
結果としてその後輩は剛くんにとても感謝したらしい。
そういえばカウントダウンコンサートで随分と剛くんに近い場所で仲良さそうにしていたのをテレビで見た。
「この前の家……いや、櫻井家にお邪魔したんだけどね」
「ああ、相葉と仲良しの」
剛くんの口から相葉って聞くとすごくドキっとする。
顔に一瞬出さなかっただろうか。とても不安。
「私達の夜の営み的なのはどうなのか聞かれた」
「は?女ってそんな話しすんの!?」
「ううん、滅多にしないよ。特にとはあんまりそういう話ししたことないんだけど」
「へー……昔ほどの元気はないからなぁ。37歳だし」
「とか言ってキャバクラ行くくせに」
言ってしまった。今まで知ってたけれど触れて来なかったことについに触れてしまった。
しかもすごく唐突にぶっ込んてしまった。
言っておいてなんだけれど、怖くて顔が見れなくて黙々とポテトを食べてしまう。
やっぱり言わなければ良かった。
だって物凄く今更な話し。
「それとこれとは別でしょ」
「分かってるけど、いままで言わなかったけど、嫌だからね」
思ったよりフラットな声音だったことに内心ほっとしつつ抗議する。
今まで言わなかったのは、好きすぎて一緒に居られればそれで良い感が強かったから。
今は雅紀の存在でそんな盲目さも薄れてきてしまったのかな。なんて思うと悲しくなる。
愛が薄れちゃったみたいで、やっぱりこんなの昔の私が知ったら大変なことになると思う。
「じゃあ行く時は行くって言う」
「それは嫌!」
「じゃあ黙って行く?」
「う…、そもそも行かない選択肢はないの?」
分かりきっていた。剛くんが他人に言われたくらいで自分のしたいことを曲げるわけがない。
行きたければ行くし、行きたくなければ行かない。
黙々と食べ続けていたポテトはいつの間にかなくなってしまった。
「冗談だよ、行かないよ」
思いがけない言葉に顔をあげると、剛くんがポテトを私の口元に持ってきていた。
早く口を開けろと目で促されたから、慌ててパクリと剛くんの手からポテトを食べる。
やだ、ちょっと泣きそう。
剛くんのこういうところがずるい。
やっぱり好きだと思ってしまうから。
「最近変だったのってそれ?」
「えっ?」
「週刊誌のことで珍しく拗ねてたのもアレだけど、キャバクラのこともあったの?」
そう聞かれると何も言えない。
最近私が変だということはやっぱり剛くんに伝わってしまっていた。
雅紀からそういえばLINEが来ていたっけ。
福岡から帰ってきたよってことと、お土産にお菓子を買ってきてくれたらしい。
「急に優しくてこわい」
「ありがたがれ」
「やだ!」
ふざけ合うやり取りをしながらも駄目な私は雅紀のことを考えてしまった。
剛くんのことはやっぱりちゃんと好き。
それなのに別の人のことを考えるなんてどうかしてる。
2017/1/13 18号