平気じゃないのはたぶん僕
「おつかれ」
「ありがとうございます」
ジョッキをコツンと合わせて、生ビールを半分くらいまで一気に流し込んだ。
今夜ばっかりは飲まないと無理。正直しんどい。
とても久々に剛くんとご飯を食べに来た。
剛くんはお酒がほとんど飲めないから、飲むことよりも美味しいご飯があるかを優先してお店を選んであげる。
今日はしゃぶしゃぶ。しゃぶしゃぶは俺のリクエストなんだけど。
紅白の司会をがんばったから奢ってくれるらしい。
ありがたい。すごくありがたいし嬉しい。
でも俺は元カノであり現在剛くんの彼女であるを好きだという非常にデリケートかつややこしい問題を抱えている。
ゆえにこの状況は今となってはものすごくしんどい。
しんどいけど平常心だ。至っていつも通りでいないと。
「がさ」
「っ!?げっほ!げっほ!!」
「……大丈夫?」
「ご、ごめっ!泡が!」
のっけからの名前を出されてあからさまに動揺してむせてしまった。
おしぼりで口もとを押さえながら剛くんに話の続きをお願いする。
「がここのとこずっと家にいるんだけど」
「そ……そうなんだ」
あからさまに声のトーンが落ちすぎてしまったかもしれない。
が剛くんの家にいる。だからなのかってすぐに思った。
ここのところLINEの返事が前より遅くなったし、電話もできないって言われたから。
「ラブラブだね!」
「そういうんじゃないんだよな」
「またまた。って剛くんのことすっごい好きだもんね」
言っててものすごく心臓が痛い。
残り半分のビールを飲み干してからもう一杯おかわりを頼んだ。
本当にこの状況シラフじゃいられない。
「あやしいんだよな」
「……え、あやしいって?」
「なーんか、あるんじゃないかって思うんだけど、から聞いてる?」
「聞いてるわけないじゃないですか〜」
嘘吐いた。
いつもの笑顔で咄嗟にそう答えていた。
とはLINEしたり、たまに電話したり、2回だけ家に遊びに来たけれど結局何もしていない。
でも一緒には寝たし、抱きしめたりもしたし、ほっぺにキスもしてしまった。
一線は越えてないけど、よくよく考えたらこれは立派な浮気?
つまり俺はの浮気相手になる?
ものすごく今更なことを考えてしまった。
目の前の剛くんがタバコに火をつける。
その仕草が男の自分から見ても色気があって、ドキドキするくらいにかっこいい。
こんなにかっこいい剛くんから、を手に入れることなんてできるのだろうか。
「剛くん!そういえばさ、ちゃんが剛くんに会いたがってたよ」
唐突な話題転換に剛くんの目が丸くなった。
これ以上の話しを引っ張るのは身が持たない。
「そうなの?」
「うん。ちゃん呼んでいい?」
「いいけど。そんなフットワーク軽いの?」
「だーいじょぶ!いつでも声掛けてって言われてるから!」
話しながらLINEを開いてちゃんに今いる場所を伝えて来れるか送った。
幸いにもすぐに既読がついて、来てくれるって返事が来た。
ありがとう!!!!って返事をしてから二杯目のビールを飲み干した。
「今日ペース早くない?」
「えっ!?だ、だってせっかく剛くんの奢りだし!」
「好きなだけどうぞ」
唇の端をちょっと上げて笑う剛くんは、やっぱりどう考えてもかっこいい。
あまりに俺と剛くんは見た目的にも内面的にも正反対すぎる。
元カノながらの趣味の一貫性の無さにびっくりだ。
赤とピンク色の高級肉は美味しくて、食べながらゴルフの話しをしたり、仕事の話をしていたら、ちゃんがやってきた。
「ハッピーニューイヤー!相葉っちゃん今年もよろしくね!」
「ハッピーニューイヤー!ちゃんこちらこそ今年もよろしくー!」
両手を合わせてきゃっきゃとはしゃいでいると、剛くんからの視線が刺さっている気がした。
ちゃんもそれに気づいたのか、俺の隣で綺麗に気を付けの姿勢になっている。
「あっ、こちらが翔くんのアモーレのちゃんです」
「です!森田さんのお噂はからかねがね」
「はじめまして。がお世話になってます。座って」
剛くんに促されて、ちゃんが俺の隣に座る。
飲み物のメニューを渡してあげた。
「ウーロン茶にしよっかな」
「ちゃんお酒飲めないの?」
「そうなんです。あっ森田さんも飲めないんですよね。が言ってました」
「うん。全然飲めない」
「あと、甘い物も好きなんですよね?私も甘いの好きなんです」
「へー、気が合うね」
「うふふ」
ひとりで勝手に緊張してたから、ちゃんが来てくれたお陰でだいぶ気が楽ににった。
剛くんとちゃん思ったより会話も弾んでるし助かる。
しばらくして剛くんがトイレに立った瞬間、二人して大きく息を吐いた。
「ちゃん急にごめんね!二人きりの緊張感に耐えきれなくて!!」
「大丈夫だよ。双子のピンチとあれば駆けつけないわけにいかないわ」
「本当にありがとう」
「あれからには会っていないの?」
「会ってない……剛くんの家にいるんだって」
「そうなんだ……好きな人には会いたいよね」
ちゃんがまるで自分のことのように悲しそうに呟くから、思わず大丈夫だよ!と笑顔で返してから、頭をぽんぽんと撫でてあげた。
そのタイミングで剛くんが戻ってきて、俺とちゃんを交互に見て眉間に皺を寄せている。
「え、二人……変な関係じゃないよね?」
「違う!誤解!俺たち双子なだけだから!」
「そうなんです!双子なのです!」
「双子??」
「話せば長いです!」
「じゃあいいや」
こうして、無事に剛くんとの会食はちゃんのお陰で無事に終えることができた。
どうせ仕事は忙しいから、没頭していればの事を考えないで済む。
それでも寝る前にはどうしても考えてしまう。
飲みすぎて頭がふわふわする中で、に会いたいなって思いながら眠りに落ちていった。
2017/1/18 18号