何度でもこうして、ほら
が剛くんの家から直行直帰していると聞いて、暗い感情がぐるぐると渦巻いてしまった。
いつも通りニコニコ笑ってるつもりだったのに、ちゃんにはしっかりと無理してるってばれていたし、まだまだ修行が足りない。
お土産を渡したいと言ったら、ちゃんからカラオケに行こうと提案された。
久々にカラオケに行ってこのモヤモヤとした気持ちを発散できた気がするからちゃんに感謝だ。
ニノに『無事にお土産をちゃんに渡したよ』とLINEしたら、わりとすぐに返事がきた。
『おつかれさま。反応はどうだった?』
『翔くんと使えってことかなって困ってたよ』
『あらそう。まあそれでもいいけどね。というか相葉さん、とはヤったの?』
既読にしたまま数秒固まった。
なにもしてないの分かっていて、意地悪で言ってるんじゃないだろうか。
『やってないよ』とだけ短く返して携帯をソファーに投げた。
チャンスならいくらでもあったのに何もしなかったことを今は後悔してる。
だって現には会ってくれない。
まだ新年はじまったばかりなのに気が滅入る。
ニノに面白可笑しくいじられるのも癪に触るくらいには滅入ってる。
はぁ、とため息を吐いたところで携帯からピロリンと新着メッセージのお知らせが来た。
どうせまたニノだろうと思ったらちゃんからだった。
『が今日から自分の家に帰るんだって!チャンスよ相葉っちゃん!』
この朗報に勢いよく起き上がってちゃんにお礼のメールを打つ。
それからすぐにに電話をかけた。
長いコール音……出てくれないのかな……と諦めようと思ったら、不機嫌そうな声が電話口から聞こえてきた。
「もしもし!?!今どこ!?」
「どこって……剛くんとこ出たとこだけど。なに?電話のタイミングすごく良いけどまさかが!?」
「正解!!剛くんとこからだったら家に来るのそんなかかんないね!今から来て!待ってる!」
「は!?なんで!私帰って掃除したり洗濯したりしたいんだけど」
「お土産取りに来てよ!早く食べないと悪くなって勿体無いでしょ」
「そ……そうね。じゃあ取りにだけ行く」
電話を切ってはーっとため息を吐いてから、ちゃんのお陰でに会えることになったと報告した。
が来る。急いで散かった部屋を片し始めた。
ここ数日ダークサイドに落ちかけていたから、何もやる気が起きなくて部屋がひどい有り様になっていた。
ビールの缶が溢れそうなゴミ袋をしばってベランダに放り込む。
お掃除ロボットをオンにして後は任せた。
それから慌てて洗面所に駆け込んで寝癖を直してヒゲを剃る。
そういえば剛くんはヒゲがあってもかっこいいんだった。
じゃあ例えばそこで俺がヒゲをはやしたままだったらどうだろう。
似合わないって言われるかな。言われるだろうな。
自分でもキャラじゃないことくらい分かる。
インターホンが鳴って、だと確認すると上がってきてもらうように伝えた。
「いらっしゃい」
「うん」
やっぱり不機嫌そう。は顔に出やすいからすぐに分かる。
「まああがってよ」
「あがらない。お土産もらって帰る」
不機嫌な理由に察しがついた。不機嫌というか警戒してる。
「そんなこと言わずあがってお茶くらい飲んでいきなよ。実家からちょー美味しいみかんもらったからさ」
「みかん……ちょー美味しい……」
「うん!めっちゃ甘いよ〜」
「お邪魔します」
みかんひとつでいとも簡単に部屋にあがる。
我ながら扱い方を心得ていると感心する。
みかんを二、三個目の前に置いてあげると嬉しそうにむきはじめた。
警戒をしはじめたという事はの中で何か心境の変化があったって事だろうか。
どんな心境の変化だろう。ついこの前まではメールにしたって電話にしたって普通だった。
一緒に寝てくれたのに。あの時はじゃあ逆に何とも思われてなかったって事?
クリスマスイブの俺の誕生日にも来てくれたのに?
わからない。女心がさっぱりわからないよ。
「ん〜甘い!何これなんてみかんなの?」
「え……なんだっけ。忘れちゃった。そんな甘いの?」
「めっちゃ甘い!……あれ?あんたさっきめっちゃ甘いって言ってたじゃん。食べたんじゃないの?」
「まだ食べてない。母ちゃんがめっちゃ甘いって言ってたから」
「騙したのね」
「だましてないよ!甘かったんでしょ」
ぶつぶつと文句を言いながらも、は二個目のみかんに手をつけている。
「俺も食べたい」
「食べればいいじゃん。まだあるんでしょ?」
「に食べさせてもらいたい」
あーん、と口を開けた。
が戸惑ってるのが分かる。
会いたかったのに散々避けられて来たんだからこのくらいの仕返しをしてもいいよね。
観念したが一粒みかんを俺の口まで持ってきてくれた。パクリと食べる。
「ほんとだ!めっちゃ甘い!」
「よかったね……」
「に食べさせてもらったから一段と甘く感じるのかも」
本当に素直にそう思ったから言ったのに、は明後日の方向を向いてしまった。
照れてるのかな。それとも怒ったのかな。
なんだかこんな風にの機嫌を伺うのも楽しい。
やっぱり俺はが好きで、も俺の事を一番に好きでいてほしい。
「もう一個食べたい」
「自分で食べてよ」
「お願い!最後にするから!お願い!」
押しに弱いは、手を合わせてお願いすれば無理難題じゃない限りは叶えてくれる。
実際は、しょうがないなぁという顔をして再び一粒差し出した。
お土産を取りに来てくれたのも、部屋にあがってくれたのも、俺にみかんを食べさせてくれるのも、本気で断ろうと思えば出来たはず。
それをしなかったのがの運の尽きだ。
もうそう簡単に俺から逃げられないようにするよ。ごめんね。
みかんを一粒持ったの細い手首を掴んでにっこり微笑んだ。
呆気に取られた顔をしているを引き寄せて、ほんのり赤みを帯びている唇にあっさり触れた。
涙が出そうに懐かしい感覚。
確かに俺は前にと付き合っていて、優しくて穏やかだった日々を思い出した。
半開きだったの唇に戸惑いがちに舌を入れる。
それだけで胸が苦しくて泣きそうになってしまう。どうしてこんなに苦しいんだろう。
あたたかい気持ちでキスをしていた頃とは違う感覚。
こんな気持ちになるのははじめてだよ。
それでもやめられなくて、両手での顔を包んで唇を重ね続けた。
2017/1/22 18号