例えば君がいなくなったら
剛くんが大阪へ遊びに行くそうだ。男友達とUSJで遊んで来るくらしい。
一緒に行く?と聞かれたけど、金曜は会社休めないし、流石にそんな人の多い場所に男友達も一緒とはいえ女が紛れているのはどうかと思うのでお断りした。
ていうか、大阪小旅行に付き合ってくれる友達が剛くんにいた事にびっくりだけど。
剛くんがいないからって雅紀と会う約束をするのはどうなんだろう。
いやでもその方が実際会いやすいんだから仕方ないんだと納得することにした。
とりあえず雅紀に事情を伝えて、会えるかどうかの返事待ちなのだけれど、返事が来ない。
朝方出勤途中に連絡をして、ランチの時間に確認したけれど、既読もつかない。
そして定時になって帰りの電車の中で確認すると既読はついていたけれど返事はないまま。
「これは一体……」
いつもは仕事が終わると直帰するのだけれど、激務を終えた事もあって自分を労う為にマシュマロの浮いた甘いココアを飲みに寄り道する事にした。
待ち望んだマシュマロの浮いたココアを目の前にして、思わず返事が来ない事に関してぼそりと呟いてしまった。
仕事が忙しいから返事をする時間がない、というのは一番に考えられるけれど。
それでもいつもだったら、隙あれば返事をしてくるスタンスなのに。
じゃあ意図的に返事をして来ないという事だろうか。
でも何故?え、まさか急に面倒になったとかそういう事?
ありえなくはない。だって普通に考えたら彼氏持ちの女と隠れて付き合うっていうのは面倒だ。
ただでさえ忙しいのに、こんな面倒な状況は煩わしいだけなんじゃないだろうか。
「ありえるかも……」
「何がありえるの?」
目の前から急に声がして慌てて顔を上げると、ビスクドールのような端正な顔立ちが眼前に飛び込んできた。
「お、岡田くん」
「久しぶり」
テーブルに置いていた携帯の画面が雅紀のLINEになっていたのを隠すように携帯をバッグの中にそれとなくしまう。
髭が無ければいつでも美青年なのに、今はすっかり髭モデルの岡田くんだ。
「どうしたの?」
「よくここで台本読んだりしてるから」
「あ、この辺に住んでるんだっけ」
「剛くん誘っても全然遊んでくれないけどね」
岡田くんが誘っても健くんが誘っても剛くんはメンバーと遊んだりはしないんだろう。
岡田くんもきっとそれを分かってて誘っているんだろうけど。
「声かける前、だいぶ深刻な顔してたけど大丈夫?」
「え……してないよ〜全然」
「剛くんと何かあったの」
「ない!ないない!」
目の前で両手をぶんぶんと左右に振って否定する。
まさか私が雅紀の事で悩んでいる場面を岡田くんに見られるなんて。
普段から人を観察することが趣味みたいな彼に気づかれたら事だ。
ニノも鋭いけど、岡田くんもなかなかだから気をつけよう。
「友達、がね。LINEの返事なくて。わりと大事な用事だったんだけど。それで何かあったのかな〜?って心配してただけ」
「あーそういうことね。まあ、あるよね」
「あるの?」
「俺なんかよく忘れちゃう時ある」
「大事な用事なのに?」
「ちょっと筋トレ終わらせてから返そうって思ってたらすっかり忘れてたとか」
「やりそうだね、そういうの」
苦笑いで岡田くんを見ると、罰が悪そうな顔をしてから珈琲をすすっている。
バックの中の携帯を見るけれど、雅紀からLINEが届いた気配はない。
「電話したらいいんじゃない」
「あ、そっか」
「それにしてもすごいの飲んでるね」
「疲れた身体にしみるから好きなの」
電話の存在をすっかり忘れていた。
電話したところで仕事中だったら出ないだろうけど、とりあえずかけてみることにしよう。
ココアを飲み終わったところで、岡田くんとはバイバイした。
珍しい人に会ったのだし、写メでも撮れば良かった。
道すがら、雅紀に電話をかける。
しばらくコール音が続いて、出ないかと思ったところで「もしもし」と声が聞こえた。
たったそれだけで込み上げてくる。
連絡がなかった所為だろうか。私とのことが面倒だって思われていたかもなんて考えてたせいで、電話に出てくれただけで嬉しい。
「あ、ごめん。今平気?」
「少しなら」
いつもならテンション高くしゃべるくせに、やっぱり様子がおかしい。
声のトーンも低めだし、まさか本当に面倒になったんだろうか。
「LINEした件なんだけど」
「あ、まだちょっと分かんないんだよね。何時に帰れるか」
「そっか!じゃあ、無理しないで。大丈夫だから」
「ごめんね。また連絡するね」
本当に少し話しただけで電話は切れてしまった。
携帯を握りしめたまま立ち止まると、つんと鼻の奥が痺れて視界がぼやける。
どうしたのかと思ったら目に涙がたまっていた。
瞬きをしたらこぼれてしまいそうで上を向く。
泣きたいほど私は雅紀に会いたかったのかと自分にびっくりだ。
せっかく剛くんのマンションの近くまで来たから、寄って行こうかと思ったけどやめた。
ついに涙はぽろぽろと溢れてしまっているし、こんな顔で剛くんには会えない。
おとなしく自分の家に帰って、明日の仕事に備えて寝てしまおう。
そう決めて一歩踏み出したところで、携帯の画面が明るくなって雅紀から着信が来た。
鼻をすすってから電話に出る。
「もしもし……」
「え……どうしたの?泣いてるの!?」
さっき私が電話した時とはうって変わって焦った声が聞こえてきた。
そんなに涙声になっていただろうか。
「泣いてないよ」
「嘘だよ泣いてるよ、どうしたの?」
どううしたもこうしたも雅紀の所為だ。
でもそんなことは悔しくて言えるわけがない。
「だから泣いてないから。そっちこそ何?どうしたの?」
「LINEの件だけどさ、大丈夫だよ」
「へっ?」
力の抜けたような声が思わず出てしまった。
てっきり会えないと思っていたから。
だから、その反動で今度は嬉しくてまた泣きそうになってしまった。
まさかこれが雅紀の作戦だったなんて思ってもみなかったわけだけれど。
いつの間にかすっかり私は夢中になってしまっていたらしい。
2017/2/11 18号