ドキピー

ささめごと

遠い夢から覚めた時に、わたしの現実が裏返って、あの人が独身になっていたり、時間が戻ったりしていないかな?
が相葉ちゃんと付き合ってる夢を見たなんてLINEしてきて、なになにもう付き合ってるも同然じゃないって嬉しくなってしまった。
でも相葉ちゃんはこの間「俺は間男に成り下がってしまったよ」って言ってて、間男って何だっけ?落ち込まないで!って思ったり。
我慢なんてすることないと思う。
それがいつか後悔を生むかもしれないと、たぶん今のわたしは知らないから、好きな人には好きなようにしていてほしいんだ。


映画がクランクアップしてからあの人は何をしているのか、あの日待ち時間には初めての電話をくれたのにその後はつれなくて、シリアの子供たちに関するツイッター更新はされどLINEの返事も返ってこない。
まだ咳が出ますと、ものすごくどうでもいいことを送信したら『god bless』と一言。
一応心配してくれてるのはなんとなく察するけど、これ、LINEを最初にしていた頃締めの挨拶にしていたやつだなぁ。
わたしも少し黙ることにした。
LINEに踊らされるなんて、子供じゃあるまいし。
そうだ、あの人は年上の大人男子で、こないだ通話したことで少し浮かれすぎていただけ。

気づけばエランドール賞という、1年を通して影響を与えた新人さんに与えられる賞の授与式当日になっていた。
あの人がその賞を受賞したことはHPで見て知ったこと。
わたしは主催する団体だかの会員ではないから、行きたければ一般入場15000円。
あの人関係でけっこう一気にお金を使ってしまって、今いきなりぽんと出す、そんな余裕はない。
それにほかの人から黄色い歓声を浴びてるあの人を見て、わたしは正気でいられるかしら。
むしろ、リップクリームももらったし電話やLINEもしてるんだからとか変な優越感みたいのが出てしまって、そっちでざわざわしてしまうかも。
自分だってただのファンのくせに。
誰より好きだって言えちゃう自信もあるけど、ひとりのファンのくせに。
それなら大人しくしているのが吉だ。
夕方まで仕事だったわたしは、同じく仕事終わりのを直前に誘い夕飯を付き合ってもらうことにした。


カラオケ行く?」
「えっいいの?声まだちょっとガラガラだけど」
「喉きつい?やめとくか」
「ううん、行きたい」
「じゃあ行こ!カラオケでごはんも食べちゃおう」


お正月から寝込んで声を枯らしてしまった割に、最近しょっちゅうカラオケには行っている気がする。
と訪れたカラオケ店は歌舞伎町で、エランドール賞授与式は新宿の京王プラザホテル。
少し距離はあるけど、同じ新宿の空気を吸ってるだけで我慢しようと思った。
部屋に入室して運ばれてきたごはんを食べてまずは世間話をしながら、携帯が鳴ったのに気づく。

『授与式直前なう』

せっかくこちらからのLINEは控えていたのに、画面の文字を見て目眩を起こすかと思った。
いま新宿にいるけど行かれないと返事をしたら、『あれっ来ないんですか?星野源くんもいますよ』と来たものだ。
気付いた。けっこう、天然なのだと。

『そんなにお金持ちではないのです』
『確かに僕より上の方も多い気しますね、経済的に安定してそうな』
『それにわたし、ディーンさんとは会えるし』

本当はとっても悔しいけれど、思い切って強気に出てみた。
既読がついてから数秒して、

『そうかも』

かも、って。
ため息をつきそうになったら、カラオケのDAMチャンネルを見ながらすき焼き丼を頬張っていたに、どうしたの?と声をかけられる。


「浮かない顔して。翔くんから?」
「あっ……う、うん。今週お互い帰りが遅くてね、あんまりおしゃべりしてないの」


あの人からのLINEが来る度に、相葉ちゃんにもにも翔くんからだって言って、翔くんにも適当言って。
いつからこんな嘘つきになったんだろう。
そのうち息をするように嘘を言うようになるんだろうか。
あの人が嫌いな嘘。人を騙すこと。
嘘つきって嫌われたくないけど、嘘なしではうまくやれない。


と翔くんがあんまり話さないってめずらしい感じね」
「ううん、わたしも帰り続けて深夜になっちゃって、翔くんも遅くて、どっちか寝ちゃってて」
「雅紀も忙しそうでさ……そういえば今さらなんだけど、カレーにパクチーってありなの?」
「えっ何の話?」
「あれ?パクチー栽培してるんでしょ」


パクチー栽培キットは開封されることなくリップクリームと一緒にわたしの靛区域で眠っている。
もし万が一育てて枯れたら悲しいし、形のまま残しておきたいコレクター気質が出てしまった。
隠さなくちゃ。
あの人からLINEが来て動揺しているわたしの心を静かにしなきゃ。


はあいばっちゃんと順調?」
「イチゴ大福持ってったら喜んでた」
「えー!また家に行ったのね!?」
「行ったけど…」
「やだ!やらしいんだから!」
「や、やらしい?なんでそうなる!?」


がわたしより数倍動揺した雰囲気を見せる。
感染させてしまえば気づかれないよね。
相葉ちゃんは「ワルになる」って言っていた。
きっと何か考えて頑張ってる。


「うふふ。イチゴ大福も好き!食べたいなー。で、森田さんとも順調?」
「げっほげほ!はけっこう普通に大胆なことを言うよね最近」
「そうかな?」


自分の唐揚げ丼を口に運んでスマホに目をやると、新たなメッセージが来ていた。

『13年目の新人、祝われてきまーす』

香港でキャリアをスタートさせて13年の36歳で新人か。
やっぱり何事も継続は力なりだなぁとぼんやりと感じた。

『加油』

そしてがんばって捻り出した中国語。
祝われるんだから、頑張ることなんてないじゃない。
わたしの頭の中の中国図書館はもうだめだ。
実際土地に触れた上で、大学生になったときに難しいからと授業選択すらしなかったことを本当に今、後悔している。
カーペットの上できっとトロフィーをもらって囲み取材を受ける姿を想像したら、会えるからと強気に出た自分が悲しいし、何だか情けない。
そういう強気を装うの、ぜんぜんわたしらしくない。
今まるでわたしは苦手な水中にいるようだ。
バタ足だけでは前に進めないし何もかもが足りないから、もっと素直にスイムして、自分の気持ちをあの人に伝えたい、もし許されるなら。
たくさん知りたい、知らないことは教えてほしい。

カラオケに送信した未だに覚えきっていない切ないラブソングはあの人がドSだったドラマの曲で、にはもっと聴けば歌えるねって励まされた。




2017/2/12 6号