貴方おモテになるから
『気をつけて行ってきてね』
と剛くんにLINEを送って、私はその足で雅紀のところへ向かっていた。
着々といわゆる二股が進行中。
器用な性格ではないから絶対いつか破綻する。
自分で分かってるのに、どちらか1人を選ぶことができない。
それでも本当に私は雅紀に恋しているみたいで、夢にだって出てくるし、テレビで見かけると一瞬息が止まるほどだ。
私がこんなことになっているというのに、だからこそこの前の雅紀の態度は許せない。
なんのつもりか知らないけれどやけに冷たくされたこと。
不機嫌なオーラを全身にまとって雅紀の部屋に入ると、何度もごめんと謝られた。
「あれには理由があって」
「……理由?」
「うん……も、もうあんな風にはしないよ。ガラでもないことはするもんじゃないね」
やけに落胆した表情で反省しきりの雅紀を見て、許してあげようか迷う。
ソファーに体育座りをして膝に顔を埋めてしまったから、隣に座って頭を撫でてあげた。
結局私は雅紀に甘い。それも惚れた弱みというやつだろうか。
ふわふわの髪の感触が気持ち良くて、昔飼ってた犬を撫でている時のような懐かしい気持ちになった。
ちらりと顔を上げる雅紀と目が合う。
「ほんとごめんね……泣いてたもんね?」
泣いていた、と言われて途端に恥ずかしくなって雅紀を撫でていた手を引っ込めた。
その手を逆に掴まれて引っ張られるまま、すっぽり雅紀の腕の中におさまってしまう。
「泣くほど俺に会いたかったの?」
耳元でそんなことを言われた瞬間身体中が熱くなった気がした。
しかも図星ときている。
肯定も否定もできないまま下唇を噛んで視線を彷徨わせると、視界に入ってきた色とりどりのショップバックが気になった。
「ねぇ、あれなに?」
「ん?」
私が指差した方を振り返って、雅紀があぁ〜と低く呻いた。
「たくさんあるみたいだけど」
「あれはその……一応貰っただけで」
「なにを?」
「……バレンタインチョコ?」
バレンタインデー。すっかり忘れていた。
でもバレンタインは数日後。
それなのに気の早い女子達が雅紀にわざわざ渡しに来たということか。
「さすがだねーモテモテだねー」
「棒読みで怖いんだけど!!」
「きっとあれ全部本命チョコなんじゃない!?」
前倒しで渡してくる辺りそんな感じがする。
剛くんも貰ってきてるのかな。次行った時に確認してみよう。
「貰った時どうせにっこり笑ってありがとーって言ってるんでしょ……」
「え?!他にどうすればいいの!?」
「やっぱり……」
いつもの調子で雅紀がにっこり笑って受け取ってくれたら、きっとみんな好きになる。
胸の中がちりちりする感じ。
嫉妬したって仕方がないことなのに嫉妬してる。
こんな事で嫉妬したってきりがないのに。
「雅紀は私のだよ」
昔付き合っていた頃には言ったことないような言葉が思わずこぼれて、雅紀にキスをした。
そのまま首筋にかけてキス。
「んっ、ちょっと待って…!」
嘘でしょ!?って顔をしている雅紀をチラリと見て気を良くした私はパーカーの裾の中に手を這わせる。
私の手が冷たいせいなのか、雅紀の身体が小さくはねた。
スウェットをおろそうとすると、いよいよ雅紀が本当に抵抗してきた。
息も絶え絶えのくせに。
「え!?これってまさか襲われてるの俺!?」
「嫌なの?こんな感じなのに?」
「あっ、」
ちょっとスウェットの上から触ってみたら高めの声をあげる雅紀に気を良くした。
だからそのまま触ってあげることにする。
私をぎゅっと抱きしめてきて可愛い。
「、お願い」
「なに?」
「舐めて」
「……どうしよっかなぁ」
「まさかこの前の仕返しを!?」
ちょっとだけそれもあるけれど、単に雅紀が面白いから焦らしてからかってるだけだ。
「いいよ、してあげる」
やっぱり私は結局雅紀に甘い。
剛くんにだってそんな滅多にしてあげないことを今している。
そう思うとごめんなさいっていう気持ちになるのに、この背徳感のせいで興奮してしまっている自分もいる。
私の口の中で質量を増した雅紀にうれしくなって、見上げると恥ずかしいのか両手で顔を覆っていた。
私の方が恥ずかしいんですけど。
少し笑って、私は舌を這わせ続けた。
チョコレートの嫉妬はいつの間にか消えていた。
2017/2/19 18号