ビターと私の心はほろ苦い
「久しぶり」
彼氏に久しぶりと言われるっていうのも珍しい。
でも一緒に住んでるわけじゃないから、久しぶりになることはよくあることだ。
雅紀よりも低いところから出る声は聞き慣れていて私の好きな声。
態度でかくソファーにもたれているその姿はどこかの王様のよう。
「剛つん、お誕生日おめでとう!」
語尾にハートマークたっぷりつけて、大袈裟なくらいにきゃぴきゃぴとしながら剛くんの隣に滑り込んだ。
細い腕にしがみついて、肩口に頭を乗っける。
途端に鬱陶しそうな視線を寄越された気がするけど気にしない。
この感じが長年繰り返されてきた私と剛くんの関係性だから。
「大阪楽しかった?USJどうだった?」
「俺もまだまだ有名人なんだなって実感した」
「きゃーきゃー言われたの?よかったね~」
「おい。なんかバカにしてんだろ」
「してないよ!彼氏がモテモテだと嬉しいんだよ!」
剛くんがUSJで女の子にモテてる姿を想像すると、非常に微笑ましい。
ちやほやされるのが好きな剛くんは、声を掛けられたら掛けられたで嬉しいタイプの人。
見た感じ怖いから誤解されやすいけれど。
それにしてもつい最近、私は雅紀にヤキモチを妬いていたんじゃなかったっけ。
バレンタインのチョコを貰っていることが気に入らなくて、胸にトゲが刺さったみたいだった。
なのに剛くんが女の子にきゃーきゃー言われてヤキモチ妬かないっていうのは何でなんだろう。
キャバクラに行ったりとか、週刊誌に載ったりっていうと話は別なんだけど。
「?」
一瞬ぼーっとしてしまったらしくて、声を掛けられて慌てて意識を引き戻した。
いけない。剛くんといるのに雅紀のこと考えるなんて。
「あ、そういえばがねこの前フライングで森田さん誕生日おめでとうってLINEしてきたよ」
「は?なんで?」
「20日がもう来たと思ったんだって」
「それ……やばいな?疲れてんの?でもありがとうって言っておいて」
「うん、言っとく」
そんなタイミングで、携帯がけたたましく鳴って欠伸を噛み殺しながら剛くんが電話に出る。
マネージャーさんの車が到着したんだろう。
電話を切って剛くんが立ち上がった。
「じゃあ行くけど」
「がんばってね」
「大阪のお土産とか、バレンタインに貰ったチョコとか冷蔵庫入ってるからたべていいよ」
「あっ!私もチョコもってきたんだけど。とっくに過ぎたけど」
誕生日にバレンタインのチョコを今更渡すっていうのもおかしな話しだ。
ここに来る前に大きな百貨店のデパ地下に行ったら、それはもう見た目綺麗で可愛くて美味しそうなケーキやフィナンシェ、チョコレートなどがディスプレイされて目移りしまくりだった。
とりあえずお誕生日のケーキはマストで購入。
ピンク色のショートケーキのホールで、お花がいくつも咲いていてイチゴが乗ったものにした。
お誕生日プレートの名前はどうしますか?と聞かれて、happybirthday森田剛、剛くん、剛つん、森田さん……のどれにするか迷った挙句、森田さんにした。
なんで苗字だよと突っ込まれるかな。
それからバレンタインのチョコもそのままデパ地下でだいぶ奮発したものを購入したのだった。
「あ、冷蔵庫入れとこうか?」
「今貰う」
差し出されたその手に剛くんの優しさを感じて胸が詰まる。
そういうところが好き。
別に帰ってきたら食べたらいいのに。
「高そうなチョコじゃん」
「それが高かったのよ!」
別に高いものをあげて罪悪感から逃れようとしたわけじゃないんだけど。
もしかして無意識にそうしちゃってたのかな。
でも剛くんが嬉しそうにしてるから買ってきて良かった。
「せっかく有給取ったのに悪い」
「ほんとだよー!早く帰ってきてよね!」
チョコレート片手に相変わらずバックとかそういうものは持たずに部屋から出て行ってしまった。
剛くんが帰ってくるまでV6のライブDVDを観て待っていよう。
どのDVDにしようか考えていたらLINEの通知音がした。
から「今日こそ森田さんおめでとうございます!!!」とやけに勢いのある祝辞が来て思わず吹き出してしまう。
は雅紀を応援しているのに、こうやって剛くんのことを気にかけてくれるのはやっぱり嬉しい。
剛くんが帰ってきたらからのLINEを見せてあげよう。
LINEの通知はもうひとつ。雅紀から来ていた。
名前を見ただけで心臓がきゅーっとなるから、本文なんてもっと読めなくて未読のままだ。
最近はほぼ毎日のように連絡を取り合えっているけれど、今日ばっかりはなんとなくやめた方がいいんじゃないかと思う。
今日1日連絡しないからって何か変わるとかじゃないけれど。
既読をつけないまま、テレビをつけらどういうタイミング?!ってくらいタイムリーに雅紀が出ているCMが映る。
顔を見ると余計に雅紀からの連絡が気になるからやめてほしい。
もしくは返信をしろというお告げなのだろうか。
いやいや、今日ばっかりは駄目だ。
そうして私は頭の中の雅紀を消して、一番手前にあった20周年アニバーサリーのDVDを素早くレコーダーに入れたのだった。
2017/2/20 happybirthdayごうくん 18号