君の夢ではラクダが泳いでる
「相葉くん、きみ最近遊びに来すぎじゃないかなと思うわけだけど」
帰ってきたところに2人で揃っておかえり!と声をかけると、翔くんはなんでいるの?というような表情を浮かべた。
相葉ちゃんは今日もうちに来て恋愛相談をしている。
「いや、来てもいいよ。それは良いんだけど」
「いやぁごめんごめん!恋バナに花が咲いちゃってさ!」
翔くんはよくそんなに咲く話があるよなとかぶつぶつ言いながらコートを脱いで、リビングの椅子に腰掛ける。
今日はごはんはスタジオのお弁当と連絡があったから、特に何も用意はしていない。
ところが自分で何か買ってきたのかスーパーの袋をガサガサしている。
いつもの晩酌は、今日もするらしい。
恋バナに花が咲くことよりも、わたしは毎日の晩酌の方が不思議。
毎日よくお酒飲むなぁって。
「」
「なぁに?」
「ちょっとこっち来て」
晩酌の支度が一通り整ってから、寝室に呼ばれる。
相葉ちゃんにちょっと待っててねと言って、呼ばれるままに寝室についていくとおもむろに手首を引っ張られた。
「きゃっ」
そのまま翔くんはばたんとベッドに倒れて、わたしが馬乗りになった状態。
ドア開いてるのに。
「しょ、翔くん、どうしたの急に」
「最近俺とより相葉ちゃんとの方が楽しそうじゃん」
「そんなこと…ずっと恋愛相談をね」
「何にもないよね?2人」
「え?」
耳を疑った。
まさか相葉ちゃんとわたしに何かあると思ってるの?
そんなわけない。
ありえなさすぎて笑ってしまった。
「翔くん変なこと言わないで。あいばっちゃんはに本気なの。はそれを応援してるの」
「…聞くほうがどうかしてた。あるわけないと俺も思う」
「なんにも心配いらないよ。男女の双子だから」
男女の双子、言ってみて自分の言葉が一瞬自分の首を締めた。
あの人の子供、男の子と女の子の双子。
今頃ご家族とテレビ電話でもしてるかな。
そう、翔くんはうちに遊びに来る相葉ちゃんという目に見える対象に気を取られて、わたしがあの人と連絡を取っていることにはまったく気づいていないのだ。
気づかれたら困ってしまうからそれでいいのだけど。
「心配いらないならチューしよっか」
「え、だめだよ」
「いいんじゃん、チューくらい今更」
たまに意地になっちゃうんだなぁ。
体を倒して、めずらしくわたしの方から唇にやわらかくキスをした。
遠慮なく舌が動き出して、んっと少し声が出てしまう。
そうしたらさらに遠慮を知らなくなった翔くんの右手が、スウェットワンピの中に入り込んできた。
「ちょ、ちょっと!だめ、だめ」
「すぐ済むじゃん」
「済むって何が…あいばっちゃんいるからっ…」
慌てて体を起こす。
そうしたら何か影を感じて、はっとドアの方に視線をやった。
「きゃあ!あいばっちゃん」
「ごっごめん!名前聞こえて呼ばれたかと思って…お、お邪魔だよねごめんね」
「やだー!恥ずかしい信じられない」
ベッドに寝かせてあったお気に入りのスヌーピーのぬいぐるみを翔くんの顔に叩きつけて、わたしは慌ててリビングに戻った。
相葉ちゃんが少し頬を赤くして、ごめんねと繰り返す。
悪いのは翔くんだ。
いくら仲良し、旧知を知った仲でもやっていいことと悪いことがある。
「仲良しだねー2人」
「あーん、びっくりしちゃった」
「いいなぁ羨ましいよ」
翔くんが少し罰の悪そうな顔で戻ってきて、無言でお酒を注いでいる。
今日はお手伝いしてあげない。
貝も好きに食べればいい。
「あのね、そういえばがね、V6のDVDを見ていたらみんながバックダンサーしていて、森田さんよりあいばっちゃんのことを目で追ってしまったと言っていたの」
「え!そうなの!本当!?」
「うん。あっもしかして言っちゃだめだったのかな?いいよね」
「まじかー!嬉しい!翔くん、俺も祝杯を1杯」
「帰りの車どうすんの?」
翔くんに的確に突っ込まれて、そうだった!と言いつつも相葉ちゃんは途端に嬉しそう。
森田さんはきっと今いちばんの相葉ちゃんのライバルだから、嬉しいに決まってるよね…と、わたしも思う。
ジャカルタの虎もとい、奥さんのことをあの人が見るのには永遠に勝てないとして、次に見るのがわたしだったら、わたしは本当に嬉しい。
スマホが光った。数時間ぶりのLINEの通知。ドキドキする。
「そういえばさ、ウォーキングデッド会をうちでまた開催したくて!後編も始まったことだし!」
「えーやりたい!翔くん、いいかな?」
「いいよ、好きにしなよ」
「夜通しシーズン7を振り返る会もしたいなって!」
「え、なに泊まりってこと?それはちょっと」
「あっ、やっぱダメだよね…って翔くん顔こわいよー」
お泊まり会はどうしてもダメらしい。
ニノとか別の子がいればいいのかな?
ていうか、翔くんが来ればいいのに。
「仮にさ、泊まりを俺が許可したとしてさ」
「はい」
「一緒に寝るの?」
「いやいやいやそこは俺はソファで!」
「うちのお姫のはそこそこいびきがうるさいけど大丈夫?」
LINEをこっそりと開こうとしていたわたしはスマホをそのままゴトッと床に落としてしまった。
相葉ちゃんが少し困った顔をしている。
「あっ、えーと、そうなの?ちゃん、そんなゆめ可愛い顔して」
「いや、ひどい日はけっこうひどいんだよ」
「もぉーうーやめてよー!翔くんは人に弱みをお話しちゃうフレンズなの?」
今流行りのアニメ口調を真似て抗議しながらふと思う。
あの人の家に行った夜。
なぜあの夜家に上げてくれたか未だ不明だけれど、わたしはけっこうな勢いで眠ってしまった。
いびき…大丈夫だったかな…。
静かに寝てる日もあるらしいからそれならそれがいちばんなんだけど、黙ってくれてるとしたらすごく恥ずかしい。
というか、わたしはあの人のベッドで、寝たんだな。
ありえない。
携帯を拾ってLINEをこっそりと開くと、1枚写メが届いていた。
もりもりのお肉と白いご飯。
今日の食事だろうか。
どうしてこういう普通のごはんの日には、わたしを誘ってくれないのかな。
「ちゃん大丈夫?女の子だっていびきくらいかくよ、気にしない方がいいよ!」
相葉ちゃんのフォローはもう既に少し遠くて、わたしは早くあの人に会いたい。
2017/2/23 6号