ドキピー

胸焼けに似た感情

に会う時間がない!ってちゃんに嘆きのLINEを送ったら、きっとも寂しがってるよって返事がきた。
そうなのかな。から寂しいなんて言われたことないけど。
そう思ってくれていたらいいな。


今日は丸一日ドラマの撮影。
レギュラーの仕事に加えてドラマが入ってくるとスケジュールがいつにも増してきつきつになる。
そろそろドラマの番宣にも出ないといけなくなるし、このままだと本当にと全く会えないんじゃないだろうか。
もしこのまま会えなかったらは俺のことを忘れて剛くんと……それは嫌だ。困る。
考えた挙句、を呼び出すことにした。


脚本の差し替えがあるとかでしばらく時間が空くとマネージャーに言われて、今がチャンスだと思った。
ちょっとだけ仮眠したいから撮影が再開できるようになったら電話してもらうようにマネージャーにお願いして、駐車場に停めてあった事務所の車に乗り込んだ。
夕方から雨が降り出すという予報通り、スモークガラスにぱたぱたと雨粒が打ち付けられる。
陽もいつの間にか落ちてすっかり暗い。


小一時間ほどして、本当にうとうとしかけた頃窓ガラスをノックする音が聞こえた。
ドアを開けると赤い傘を差したがいて、傘を畳んだが濡れないようにすぐに腕を引いて後部座席で抱きとめた。
ぎゅーっと抱きしめての髪に顔を埋めたら自分と同じシャンプーの匂いがして嬉しくなる。


「ねえっ、苦しい」
「あ!ごめん」


慌てて抱きしめる腕から解放してあげると眉を吊り上げて睨まれた。
そんな怒った顔も随分久しぶりに見たような気がして口元が緩む。


「なんでヘラヘラしてるの」
「来てくれたのが嬉しくってつい」
「ここまで来るのすごい緊張したんだからね」
「ごめんごめん」


またヘラヘラしてる、と今度は呆れられてしまった。


「ねえ、そのウィンドブレーカーの下って……貴族の服?」
「うん」
「えー!見たい見たい見たい!」


さっきの呆れ顔から一転、今度は無邪気すぎる笑顔でウィンドブレーカーのジッパーを下ろしにかかってくる。
その手を慌てて掴んで止めた。


「だめ!まだだめ!企業秘密ですから!」
「はあ?ケチ!」
「ケチとかじゃなくてジャケットは流石に脱いできちゃったし完璧な貴族じゃないから。ね?」
「見たかったなぁ貴族の衣装」
「もうすぐ本編で見れるからさ」
「まあね。すっごい楽しみ」


そう言ってにっこり笑ったがすごく可愛くて気づいたらまた抱きしめていた。
結構な無茶を言って来てもらったこととか、久しぶりに会えたこととか色んな感情がいっきに溢れでてしまったみたい。
つい抱きしめる腕に力が入ってしまう。
そうしてもうひとつ湧き上がる感情。


「痛いんだけど……」

「ん?」
「シたくなっちゃった」
「えっ!」


途端には顔を赤くして身体を捩って逃げようとするけど、しっかり俺が両腕でホールドしてるからそれもかなわない。
色々と言いたそうにしてる唇にキスをして舌を絡めたらすっかり大人しくなってしまった。
時折苦しそうに漏れる吐息とか声がやばい。


「……んっ」
「ちょっと……濡れてるよ。期待してたの?」
「ちが……あっ、変なさわりかたするから」


涙目で睨まれたけれど、の気持ちの良いところを触ったら目を閉じてしがみついてきた。
貴族ごっこした時、にご主人様なんて言われて興奮してしまったけれど、今度はこんな場所でするっていう背徳感に興奮している自分がいる。
そこそこ俺は変態なのかもしれない。


「やだ、んっ、もうやめ」


やめて、と言われる前に再びキスをして、更にを追いつめていった。
正直俺としても限界なんだけれど、よく考えたら衣装を着たまま行為に及んでも大丈夫かな……って今更なことを思う。
でもこのままシないのはどう考えても無理だから、汚さないようにがんばることにした。





「……よくコンドームなんて持ってたね」
「こんなこともあろうかと財布に!」
「高校生じゃないんだから」


結局ウィンドブレーカーは脱いでしまったので、半分貴族の格好をに見られてしまった。


「いけない貴族だねー」
ほどじゃないですよ」


なんでよ!と文句を言われるけれど、はじゅうぶん罪だと思う。
こんなところにまで呼び出してまで会いたいと思わせられるんだから。


「落ち着いたらゆっくりデートしよ!」
「うん。え?デート?外で?」
「ディズニーランド行きたいなー」
「楽しそうだけど、行けるの?」
「行ける行ける」


本当かなぁ、と怪しむがスモークガラスの外を見上げた。
そろそろ帰っちゃうのかな。
流石に撮影もそろそろ再開するかもしれないし、どの道バイバイしなくちゃだけれど。
やっぱりこの瞬間はいつになっても慣れない。
なんで一緒にいられる時間て一瞬なのかな。
すごく切ないよ。
打ち付けていた雨の勢いも少し弱くなっていた。
もうちょっとだけ居てほしくて、の手をぎゅっと握った。




2017/3/27 18号