ドキピー

右に嘘を吐き左に愛を囁く

あの時胸に泣きついても抱きしめられることはなかった。
髪をひと撫でされて、しっかりして下さいと逆に励まされ、最近嫌なことがあったんですか?とまで言われる始末。
とても反省している。
あの人への気持ち、たくみくんとの行為、翔くんへの嘘、仕事での揉め事…すべてが交差して、あの人をきっかけにしてというのは言い訳なんだけど、涙が止まらなくなったのだった。

後日アーチェリーをしている画像がインスタグラムにアップされて、心の内はわからなかったけれどなんとなくLINEのやり取りはごく普通のものになった。
少し物足りないと感じる。
むしろ最近がお互いに踏み込みすぎていたんだと思い直さなくちゃ。


翔くんは隣で口を開けて深く眠っている。
起きなくて大丈夫なのかしら。
目覚ましが鳴らないのならほっといていいか。

あの人に、おはようございますと何でもないメッセージを送る。
返ってこなくても構わない、読んでくれれば。
胸に飛び込まずあの人を励ますことができれば、距離感は変わらなかったかな。
少し戻らずに済んだのかな。
近付きすぎたと、お互い気付かずにいられたのかな。
新しいLINE。

『おはよう。今日何時になりそう?』

慌てて翔くんに背中を向けると、うーんと少し唸ったけれど起きなくて少し安心した。
8時くらい、と返事を打つ。

『まだ帰ってないかも。鍵で入っててください』

昨夜あろうことかわたしは仕事が終わったらたくみくんの家に再び行く約束をした。
その約束の途中で翔くんが帰ってきたので慌ててしまった。
キーケースに付けた合鍵は恋人とか明るいものではなくて、完全に陰のものだ。
もらって数日で、もう使用するわけか。
以前あの人が「男性の家に行く意味わかってますか」というようなことを言っていた気がする、確か相葉ちゃんのおうちに遊びに行っていた件で驚かれて。
相葉ちゃんともあの人とも、お部屋に行っても何も起こってないけどね。

たくみくんとも以前は何もなかった。
でももう違う。
ぜったいないしょ。
なんでこうなったんだろう。
たくみくんとは、すごく何が盛り上がるわけでもない。
映画の話ばかりでときめくかと言ったらそういう感じでもないし、お友達という感じ。
だけど心地はいい。
昔から空気の感じは無理がなくて楽。
あの人への気持ちにすぐに気付いて、相手が誰とも追求せずシャワーも貸してくれた、静かな傍観の人。
そういえば最初にあの人はこうも言った、「さんは浮気するタイプですね」…たくみくんに対して気持ちが浮ついてるつもりはないけど、物理で言えば結果間違いではなかったのかも。
だめだな。
あーあ、わたし、女の子の友達がほとんどいないわけだ。


朝のすべてが動き出す。
顔を洗い、髪に寝癖直しのミストをかける。
お化粧は現場で。
ファンデーションだけ塗って髪を適当に整えて、仕事道具の入ったキャリーバッグを立てた。
翔くんが寝ぼけた顔でやっと起きてきた。


「行くの?」
「うん、もうすぐ9時だもん。遅れちゃう」
「まじか…まだ全然寝れる」
「翔くんもお支度してね」


相変わらず翔くんの寝起きの顔はひどい。
わたしと、嵐のメンバー、あとはメイクさんとか?それくらいしか知らない顔。
お酒飲むせいでむくんでるし、何より眠そう。


遅いの?今日」
「ん、ちょっと遅くなる」
「飯は?」
「お弁当出ると思う」


胸に翔くんの言葉がグサグサ刺さるので、ちゅっとキスして急いで家を出た。
わたしは息を吐くように嘘をつくくせに、それがあまり得意ではないかもと今さら思う。
キャリーバッグを引きながら片手に光るスマホを見る。
あの人から返事が来ている表示。

『早いですね。めずらしい』

どんな簡単な内容でも構わない。
心が言葉通りに踊る。
早く返事を返したい。
午前中の太陽がまぶしくて、冬用のブルゾンを脱ぎたくなった。




2017/4/4 6号