ドキピー

誤解と忍耐

翔くんとそういうことすると、翌日体がどっと重い。
わたしのことをよく知ってるからストレートに快感一直線で、その分疲れてしまうというか、ぐったりしてしまう。
それが嫌いなわけじゃないけれど、たくみくんとはどうだろう。
大体、翔くん以外とこんな感じになったのは翔くんと付き合って以来初めてで、わたしはいろんなことを忘れてしまってた。
まだ触り慣れていないからたどたどしくて、丁寧で、お互いに恥じらいがある。
ふわふわっとしている。
最初って確かこういう感じだよね。
そういうの、悪くないなと思ってしまった。


「…まさか2回目を狙ってたりする?」


きれいな肌の、胸のあたりが心地よくてなんとなくちゅっちゅしていたら、低い声で問いかけられた。


「そんなつもりじゃ…」
「ほんとに?またすごい濡れてるよ」
「…」
「跨って」


そういうつもりでちゅっちゅしていたわけじゃないけど、そんなふうに言われたら意外なくらいにはドキッとした。
翔くんと2回目とか最近、なかったし。
今日のわたしは約束通りにたくみくんの家に鍵を使って入り、少しごろごろして待っていた。
じきたくみくんは帰ってきて、ベッドでぬくぬくしているわたしを見て「遠慮知らないな」と笑ってからまだ小1時間しか経っていないのに。


ちゃん。気持ちいいの?」
「んっ、うん…」
「なら、大きい声で言わないと」


そしてたくみくんは、わたしの好きなSのタイプだとわかった。
翔くんとはちょっと違うタイプの。
跨って、体を起こして、抱き合って控えめにキスをする。

お互いラブでしていることでなくても、その時間はとても優しい時間だった。
たぶんこれはドラマの昼顔さながらに、ハマってしまいそうな。
たくみくんの言葉は掠れて消えそうで、そしてとても儚い。



LINEが来てぴかりと強くスマホを光らせた。
お布団にくるまったまま新着メッセージを見る。
翔くんからは何も来てなくて、あの人からだった。
『今日も猫耳だったんですね』
ちょっぴり恥ずかしくなった。
キャリーバッグの中にたくさん衣装として猫耳が入ってる。


「たくみくん、少しベランダ借りてもいい?」
「電話するの?いいよ、ここで話して。外寒いし」


たくみくんがベッドからテレビの方にいったのでお言葉に甘え、そのまま画面をタップする。


「Hi, kitten girl」
「ミャミャミャ」


たくみくんは一瞬驚いたようにこちらを見て、すぐに目を逸らした。
受話音量はすぐに下げたので、声が聞こえはしないはずだ。
誰が相手かはばれたくない。
でも、このタイミングで話せそうだったので少しだけでも話はしたかった。


「家ですか?」
「ううん、友達のおうち」
「さいきん友達の家多くないですか?相葉くんではなく」


ちょっとぎくっとしたけれど、恐らく深い意味はないようだ。
言葉が続く。


「ていうか本当に猫耳してるさんの写真よく見る気がする」
「好きなんです。アイデンティティなの」


自然と声が少し甘えていく、そんな自覚はある。
わたしは女性として、この会話に自分の持っているかわいいところをすべて付け加えようとしている。
そういうところブリッコだって昔翔くんは言ってた。


「種類たくさん持ってるんですか?少なくとも白と黒は見たことある」
「いっぱいあります!レースのとか、あと手作りの大きいのとか」
「さすがですね」
「でもさいきん、いちばんスタンダードでよく付けてたやつが見当たらなくて…どこかに置いてきちゃったのかな」
「アイデンティティなんじゃないんですか」


声を立てて笑われた。
笑ってくれたそれが嬉しい。
今朝早起きをしてからLINEのやり取りはいい感じで、後退して牛歩になっていた空気が少しまた進めた気がする。
それから少し、年末に歌っていた既存曲の中国語バージョンが出たとかおしらせをされて短く通話を終えた。
おやすみなさい、という言葉が甘く耳に残った。
たくみくんはなるべく会話を聞かないようにしてくれていたみたいで、何も言わずにすっと戻ってきてベッドに腰かけた。


「ぽわーってなってる。顔」
「え!そう?」
「めちゃくちゃ好きじゃん」
「違うの、そういうんじゃないんだよ」
「そんな顔して否定しても誰も信じないよ」


そしてたくみくんはわたしの耳元に唇を寄せて「その人ともう寝たの?」と囁いた。
寝たという表現が微妙にリアルで、なぜだか泣きそうになってしまった。


「そうなりたいとは思ってないの」


泣きそうな顔のわたしに少し動揺したのかたくみくんはごめんと一言謝ってからすぐまた向こうに行ってしまった。
たくみくんとはそうなったくせに、そういうことした直後にたくみくんの目の前で電話して、たくみくんがどんな気持ちなのかまったく考える余裕のないわたしは、スマホを枕元に置いてからお布団にくるまった。
うちの布団とと、あの人の布団とも違う肌触り。
なぜだか心地よいから、わたしはここにいる。
少ししてからたくみくんがお茶をコップにいれて戻ってきた。


「そういえばさっき聞こえちゃったんだけど、猫耳好きなの?」
「うん、衣装でいっぱい持ってる。今日も持ってるよ」
「つけてみようか」


冗談ぽい真顔で言われて、バラエティ番組での斎藤工を見た気がして今度は笑ってしまった。
時計の針が遅くを指していて、そろそろ帰らないとと思ったけれど、あと少しだけと差し出されたお茶を受け取った。




2017/4/9 6号