ドキピー

あの子がファーストレディ

「なに?これ……」


が自分の頭上に装着された白くてふわふわした三角にとんがったふたつの耳を触りながら、怪訝な瞳を向けてきた。
俺は口許が緩むのを隠せないまま、その姿を眺めてから答える。


「猫耳だよ」
「いや知ってる。そうじゃなくて何でこんなものがあるの?」


何でかと聞かれれば答えは簡単。
この前仕事で犬耳をつけてダンスをしなければならなくて、その話をちゃんにしたらちゃんも踊りたいって言い出した。
それで一緒に練習することになって、その時ちゃんは張り切って自前で猫耳を持参してきたというわけだ。
それで結局忘れていってしまった。
が一泊して今日はもう帰るだなんて寂しいことを言うから、帰っちゃう前にとちゃんの忘れ物をに託そうとしてつい装着させてしまった。


「練習でミミをつける必要があるの?」
「えっ!その発想はなかったよ!俺も犬耳つけて練習してたし…」
「うん……そうだね。つける子達だったね」


怪訝そうながらもおとなしくつけてくれているのが可愛い。
我慢ができないのでスマホを取り出して画面をに向けてシャッターを押す。
カシャという音がすると、の眉が吊り上がった。


「やだ!やめてよ!」
「いーじゃん!はい笑ってー」


カシャと再びシャッターを切る。
猫耳をつけているなんて早々お目にかかれないからちゃんに感謝だ。
が猫耳つけた姿を剛くんは見たことないだろうなぁ、と思うと少し優越感。
満足気にしているとちょっと意地悪しすぎたのか、反撃と言わんばかりにが俺の左手を掴むと人差し指の先をペロリとひと舐めしてきた。
思わず右手に持ったスマホを落としそうになる。
赤い舌が覗いて再び指に柔らかい感触。
の口の中に人差し指が飲み込まれてしまう。
官能的すぎるその口元から目が離せない。
こんなことしてくるなんて本当には人が悪い。
ひとしきり舐めた指をやっとが解放したと同時に、気づいたら押し倒していた。
あんなことされちゃったら、そりゃこうなっちゃうよね。
も分かっているみたいだから別段文句を言わずにされるがままだ。


「猫みたいだった?」
「にゃんって言ってみて」
「絶対いや……んっ」


流石ににゃんなんて言ってくれないだろうなって分かってたけれど、きっぱり断られたのが残念だったので、の弱いところを責める。
頬が上気してほんのり赤く染まっていて、苦し気にしているのがたまらない。
すんなりと中に指が入ってしまって、またが短く声をあげた。
指を動かしながら、左手での唇に触れると再び指をぺろぺろと猫みたいに舐めてくる。
猫耳をつけたままで、下半身舐めてもらったらすっごい絵面になりそうだな……と想像したところで、が名前を呼んできた。
それはもう潤んだ目で見つめられて、猫耳姿と相まってどうにかなっちゃいそう。


「欲しい、かも」
「かも?」


思わず笑ってしまう。
の精一杯のおねだり。ちょっと意地悪のひとつもしたくなってしまう。


「どうしよっかな」
「やっ……それ、だめ」


の敏感なところを触ったら、またすごく濡れてきて嬉しくなってしまった。
意地悪も長続きできなくて、が欲しがったものをあげることにする。
の細い腰を掴んで、突くごとにあがる声が俺を追い立てていく。
つけていた猫耳はいつのまにか外れてしまっていた。




は猫耳を自分のバックの中にしまうと、玄関に向かっていく。
本当に帰るつもりらしい。
もう遅いし明日の朝ここから会社にいけばいいのに。


「送らなくていいの?本当に?」
「うん。大丈夫」
「また連絡するね」
「うん」
「またいつでも来てね」
「うん」
「えっと……」
「雅紀」


名前を呼ばれたと同時に抱きつかれた。
いきなりどうしたのかとちょっとびっくりする。
しばらくそのままで、とりあえず抱きしめ返したら胸に顔を埋めたままが「好き」と小さく呟いた。
空耳?幻聴??俺の聞き間違い?
理解が追いつかないままでいたらはもう離れてしまって、気づいたらもうドアを開けて出て行ってしまった。
好き、と言われた。
冷静に考えたらとこうやって会うようになってからはじめて言われた気がする。
どうしようすごくすごく嬉しい。
玄関のドアを見つめたまましばらくその場に立ちつくしていた。




2017/4/9 18号