ドキピー

嫌よ嫌よも好きの憂い

ものすごく久しぶりに剛くんに会うことになった。
に猫耳を返しに行って結局プレゼントされてしまったあの後、剛くんから連絡が来た。
撮影早く終わったから飯でも食べに行こう、なんて連絡が来て断る理由もないし会えるのは嬉しいからもちろんOKした。
バッグの中にある猫耳を見た瞬間、雅紀とのあれこれを思い出して罪悪感がチクリと痛い。
別れ際、雅紀に好きだと告白した。
そういえば私は雅紀に好きだって言っていなくて、あの別れ際に気持ちがこぼれてしまった。
本当は帰りたくなかったし、一緒にいたかったから。
だからせめて好きだってことは伝えたかった。
そんなことがあっても、剛くんから連絡が来れば普通に嬉しいしつい反射的に尻尾を振ってしまう。
に雅紀の犬になりたいなんて言ってしまったけれど、あれは半分は本気だ。
好きな人には従順でありたいという精神。
だから私がワン!と鳴きたくなるということは相当好きだってことだ。
の猫属性と違って私は根っからの犬属性なのだ。


「やっぱ犬ってかわいいよな」
「は!?」


私がゴルゴンゾーラのピザにハチミツをかけようとしている時にそんなことを言われ、思わず多めにハチミツが垂れてしまう。
剛くんとよく行くピザが売りのイタリアンのお店に来ると、2人のお気に入りのゴルゴンゾーラのピザを食べるのは鉄板となっている。


「それかけすぎ。でもいいや」


若干かけすぎてしまったハチミツがけのピザの乗ったお皿を剛くんが受け取る。
私はとりあえず先ほどの発言に動悸が苦しい。


「えっと……犬がどうしたの?」
「商店街で撮影してたら散歩中のコーギーが通ってさ、触らせてもらったの」
「ああ!なるほど!コーギーね、剛くんの最愛のモモちゃんもコーギーだったもんね」


モモはペットショップで当時剛くんが見つけて、誕生日も同じだから運命だと思って飼い出した犬だ。
すごくすごく大切に可愛がっていた。
今は亡くなってしまったけれど確か遺骨をいれたペンダントをいつも大事に持ち歩いている。


「見ると飼いたくなるんだよなぁ」
「飼えばいいじゃん」
「簡単に言うなよ」
「剛くんてほんと犬好きだよね。去年殺人鬼役やってた時も心が荒むからって毎日のようにペットショップ行ってたし」


やっと自分のピザにもハチミツをかけて一口かじると、チーズの濃厚さに甘いハチミツが絡んで美味しい。
一度食べると病みつきになる美味しさ。
私は今雅紀と過ごす甘い時間に病みつきになっているのかもしれないな、なんてぼんやりと思う。


「今わりと手一杯だからな」
「え?そうなの?お散歩くらいなら手伝うよ」
「お前の世話が大変なんだよ」
「は!?ちょ、ヒトを犬みたいにやめてよ!しかもたいしてお世話された記憶ないんですけど!」


冗談めかして言う剛くんの台詞に顔に熱がのぼるのが分かる。
タイムリーに犬に見立てられて変な汗をかいた気がしたので、バックの中にあるハンドタオルを取り出そうと手を入れた。
するとからプレゼントされた猫耳も一緒に出てきてしまって、慌ててすぐに引っ込めようとしたけれど時既に遅し。
剛くんの視線が白い猫耳カチューシャにいっていた。


「み、見た?」
「見た。なにそれ。なんでそんなの持ってんの」
「これは猫耳と言いまして最近はケモ耳などと呼ばれることもあります」
「なにに使うの」
「何に!?えっと、あの……に」
「あーちゃん」
にプレゼントしようと思って!」


元々の持ち物だった上に逆にプレゼントされてしまったものだけれど。
咄嗟に出た誤魔化しに、あーなんか好きそうだよなあの子、と何故かすんなり納得してスマホをいじりだしてしまった。
私は思わず無意識に止まっていた息をはーっと吐き出す。
よかった。が見た目猫耳つけそうなフェイスをしていてくれて感謝だ。
私もスマホを取り出すと雅紀からLINEがきていた。
剛くんをチラリと見ると何やら文字を打っているようだから、思い切って雅紀からのLINEを開いてみることにする。


ちゃんから聞いたよ。猫耳もらったんだって?またつけて遊ぶ?(笑)』


するわけないでしょ!!と思わず高速で返信をしてスマホをバックの中に放り投げた。
剛くんにどうかした?と言われたから、なんでもない!!と強めに言ってからゴルゴンゾーラのピザにたっぷりとハチミツをかけた。




2017/4/13 18号