ドキピー

存在意義に喰らいつけ

ストレスがたまりにたまると比例したように性的な気持ちが高まることがある。
いつもは翔くんに甘えていたのに、わたしは今回よりにもよってたくみくんに連絡をしてしまった。

『たくみくんとやらしいことしたい』
『じゃあ猫耳持参で』

にひとつ猫耳あげちゃって、なので違う耳をバッグに入れて。
我ながら何考えてるんだろう。
隣にいる翔くんを起こせばいいだけだったのに、寝顔を見ていたら声をかけられなかった。
わたしがストレスを抱えると翔くんはいつもとても心配するから、あんまりそれをぶつけたくないと思って…というのはすごく言い訳がましいし、翔くんにもたくみくんにも、あるいはあの人にも失礼だ。

ピンポンするとたくみくんはどうぞと何でもないようにドアを開けて、それはこうなる前にただ映画を観に来たり普通に遊びに来ていたときのテンションと同じだ。
着ているニットが手の甲までくる萌え袖になっていて、狙ってないとしたらずるいなぁと思った。
猫耳のことは何にも言われなくて、結局バッグの中で静かにしているだけ。
持ってきた自分がやる気満々っぽくて恥ずかしかった。

萌え袖ニットを脱いだたくみくんが体のなかに入ってくるときはやっぱりまだ知らないものが入ってくる感じがあって、時間がふわふわしていて、でもとても、とても、


「きもちいい」


口に出すとたくみくんは少し笑って嬉しそうな表情になる。
どれくらい?と子供が無邪気に聞くような感じで囁かれた。


「とけそう」
「溶けたら困るよ」
「どうして」
「いれられなくなる」


揺れた腰がわたしのことを揺さぶって、なかのたくみくんのことをよけいにリアルに感じた。
そして少し苦しそうな吐息は、とてもよく聞こえた気がする。




「たくみくんとはソフレでいたいの。やわらかいかんじしない?」
「何、ソフレって」
「添い寝フレンド、いま流行ってるんだって」
「俺たぶん添い寝しててもおっぱいは触るよ」
「なんでそんなにおっぱい好きなの?」
ちゃんのは特に柔らかい」


答えになっていない答えが返ってきて、よくわからないけれどどうやらたくみくんはわたしとこうなる前からわたしの胸は気になっていたみたいで。
薄着の季節も見ているから、仕方がないのかな。
でも友達の胸でもそんなふうに見るの不思議だなって。
あの人はわたしのことを絶対にそんな風には見ないだろうな。
見ていなくていいけれど。
たくみくんの手を取って胸に押し付ける。
お肉に手が沈んでいく。


「もう2回目したくなっちゃった?」
「うん」
ちゃんて、意外と」
「え?」
「いや…うん、やわらかい」


これじゃ添い寝フレンドじゃないじゃんとわざと責めるような口調で低い声で言われて、こういうこと言われるのが好きだから来てしまうのかもと感じる。
あんまり連続は無理だよと言いながらたくみくんはまたわたしのなかに入ってきた。
体を触る手つきがとても丁寧で、優しい感覚に本当にとけてしまいそうだと感じた。



「櫻井くんとはうまくやってるの?」
「えっ?うん。どうして?」
「なんか、大丈夫かなって思って」
「だめだったらここにいないよ」
「だめでもいていいよ」
「うふふ、そうだね」


…うん?
よくわからなくなって、スマホを開いた。
たくみくんの家に来ると、なぜかあの人からはLINEがくる。
自宅にいるときよりずっと来る気がする。
見透かされているみたい。
「友達の家にいる」ってワードがそろそろ怪しいワードになりそうなくらい。

『日本なう』

短文すぎてふっと笑ってしまった。
確かに、あの人がどこにいるのかわからなすぎて、今どこにいるのですか?と送ったのはわたしの方だけど、あまりに雑で。
たくみくんは映画のDVDをベッドにもたれて観ていたけれど、わたしが少し笑ったからこちらをちらっと見た。


「好きな人?」
「なんでわかるの?」
「わかるよ。今のちゃん題材にして短編映画撮れそうだね」
「主演わたし本人にしてね」


日本のどこにいるか聞いてるのー!と少し駄々っ子な返信を打つと、今日カフェいきます?と返事が返ってきた。
まだ夕方。
たくみくんとは真昼間からことに及んでいたということだ。
行きたい。あの人に会いたい。
性欲をたくみくんで埋めて、ときめきをあの人で埋める。彼氏はほったらかし。
神様、仏様。
わたしを磔にしてください。


「たくみくん」
「もう行くの?」


察しがいいのもいかがなものだろう。
すべてお見通し。
たくみくんがタバコに火をつけたので少し驚いた。


「たくみくん、タバコ吸ってたっけ?」
「精神的にギリギリなときとか…ちょいちょい」
「お仕事大変なの?あんまり無理しないでね」
「臭いつけないようにするから。シャワー浴びてきなよ」


たくみくんは優しい。
翔くんも優しい。
あの人も優しい。
わたしの周りには優しい人がたくさんいる。




2017/4/20 6号