ドキピー

あれと言ったらそれ

春うらら、ときどき雨。
楽しみにしていた海外ドラマのウォーキングデッドのシーズン7もすべて終了してしまったので、相葉ちゃんと録画の一気見会をしようと決めた。
場所は今回も相葉ちゃんの家。
電車がなくなったら翔くんが迎えにきてくれるとのこと。
あくまでも泊まりは許さない姿勢らしい。
まぁ、が泊まりに行ってるおうちにわたしが泊まるわけにはいかないよね、今となっては。


ちゃんなんかいいことあったの?」
「えっなぜ?」
「嬉しそうな顔してるから」


あの人とお花見したから嬉しいとは言えないし、その後放送開始したばかりの生放送で少し緊張気味の笑顔をテレビ越しに見守っていたら、放送終わりにあの人の方から『本番終わり~』って連絡が来て、
『見てました!ドキドキ感伝わりました』
『さすが。バレちゃいましたね』
なんて少し仲良しっぽいやり取りをしたから…なんて、それも言えないし。
でも顔には出ちゃうんだなぁ。


「うふふ、何にもないよ」
「そっか!でも仕事ストレス少し大丈夫になったみたいで良かったよ!」
「まだすこーし続くけど、でも、大丈夫!ケーキおいしかったし」
「そうだよ!俺もも翔くんもいるよ!」


一気見会のためのお夜食を買いに2人でスーパーに入る。
いつも利用している家の近所のスーパーも決して安くはないと思うけれど、こっちのスーパーはもっと売り場が整然としていて価格もちょっぴり上。
第一、お惣菜の彩りが違う。


「そういえばさ、このスーパーでニノとが遭遇しちゃったみたいで」
「聞いたよー!ニノのことだからいろいろ突っ込んでくるんでしょ、想像するだけで言い方とかわかるもん」
「そうなんだよー参っちゃったよー」


スーパーでお買い物してごはん作って…とか、通い妻みたい。
なんかいいな。
わたしは翔くんのところに通っていた時期がほとんどなくてすぐに一緒に暮らしてしまったから、ちょっぴり楽しそうで羨ましい。
…たくみくんのおうちの合鍵持ってるから、そういうゴッコをしようと思えばできるのか。
いや、でも本当はあの人とそんなふうにしてみたい、なんて夢を一瞬抱いた。
グルテンフリーのごはん、何作ってあげればいいのか悩んじゃうけれど。


「あいばっちゃん、アイス食べたくない?」
「食べたい!買ってこ!…ああっ!」


相葉ちゃんが指さしたその先に、しばし見ていなかった極度の猫背シルエット。
この高級スーパーで、てっきとうなシャツにスエット、ボロボロの傘を引きずってアイスの売り場前に佇んでいるのは先ほど噂に出たその男だった。


「ニノー!おつかれさま」
「あら!相葉さん!…と、」


ニノはわたしの顔を見やってニヤッと笑った気がする、間違いない。


「セックス大好きなさんじゃない!久しぶり」
「やだ!何その呼び方」


慌ててニノのそばに駆け寄った。
人が周りにいなかったから良いけれど、あまりに唐突だから慌ててしまった。
相葉ちゃんは困った顔をして「駄目だよー」って言っているから、もしかして何かわたしの話でもしたのかしら?


「久しぶりに会うのにいきなり何なのよう」
「あなた家出以来ですよ、夜中にいきなり電話してきてさ」
「あっ、あの時はごめんね…でもなんでそんな呼び方するの、変な人だと思われちゃうじゃない」


思い当たらないわけじゃないから慌てるんだと自分で思う。
もー!とわたしが傘を握りしめて足踏みするとニノは余計に面白がる。
しまった、そういう男だったんだ。


「聞いたよ、お宅セックスレスなんでしょ」
「えっ?」
「ご無沙汰だって言ってたよ。その割にさんときたら肌ツヤがずいぶん良さそうだ」
「そっ、そんなわけないよ」


確かに翔くんとはすこーししてないかもしれないけど、たくみくんとは…いや、そんなのバレるわけないし。
てっきとうな格好で、てっきとうなこと言ってるだけなんだから。


「いや、わたくしもセックスモンスター櫻井からご無沙汰だと聞いたときには耳を疑いました」


そんなあだ名聞いたことないよ!と相葉ちゃんががんばって突っ込みを入れているけれどニノは意に介せずといった感じ。
こういうことをズケズケ言ってきて、本当にニノじゃなかったら警察を呼んでもいいレベルにセクハラなんだけど、ニノだと許せちゃう、なんでだろう。


「わたし翔くん一筋だもん」
「そうだよ!ちゃんと翔くんは仲良しだよ、俺家に行って見たもん、いちゃいちゃしてるの」


相葉ちゃんの援護射撃で、ニノはようやく諦めたのか「いじりがいがないなぁ」と肩を竦めた。
憎たらしいはずなのにやっぱり許せちゃう。


「ねぇねぇニノもウォーキングデッド一緒に見る?」
「断る。双子とかいうのには巻き込まれたくないのでね」
「ひどーい」


…翔くん一筋だもん、というのは、本当はちょっと胸が痛くなった。
たくみくんの家に行く約束、またしてしまったから。
あの人ともLINEの真っ最中だから。
ブルゾンのポケットの中でスマホが震えている、きっとそれはあの人からのLINEだからわたしは少しそわそわしてしまって、ニノに「やっぱりあやしくない?」なんて言われてしまったのだった。




2017/4/23 6号