ドキピー

倫理的背徳感

剛くんに一緒に住むかと言われてその場はなんとか笑顔で誤魔化して数日が経った。
雅紀とは会えていない。連絡もあまり取れてはいない。
剛くんと住むかも、なんていうことを言うのも気まづい。
私がもし雅紀の立場だったらそこそこ傷つく。
でも男と女でその辺りの感情は違うのかもしれないなとも思う。
だって男は気持ちがなくても身体の欲求を満たすことができるっていうし。
いやでもそれはないか。雅紀が私のことを結構好きなことは知っている。
自惚れとかではなくて、本人がそういうことを隠すことなく言ってきているから。


も相変わらず忙しそうにしていてなかなか会う機会がもてない。
櫻井家に行こうかとも思ったけれど、翔くんが帰ってきたら剛くんと同棲するかで悩んでいるという案件で話を続けることは難しいし。
え?悩む必要あんの?!って絶対言われるに決まっている。
故に私は今とりとめのない悩みを三宅健に打ち明けていた。
代官山の健くん行き着けのカフェはやたらとオシャレでオーガニックな雰囲気が漂っている。
いっこうに老けない健くんの横顔を頬杖ついて見つめつつ、アイスティーのストローをくるくるとまわして私はクダを巻いていた。


「なんで今更同棲なんだと思う?」
「知らない」
「健ちゃんさん冷たいよ?」


終始私のとりとめのない話に興味なさそうにしていた。
健くんは剛くんのことが大好きなので、昔から彼女である私への当たりは強い。
私も一番のライバルは三宅健だと思っている。
だからこそ剛くんの唐突な同棲への持ちかけを健くんに聞いてもらいたかったし、どうして今更そんなことを言い出したのかの意見がほしかった。


「剛は前から気にしてたよ」


膨れる私をちらりと見た健くんがため息混じりに意外なことを教えてくれた。
私は剛くんに一緒に住みたいなんて言ったことはなかった。
やだ、って言われたら泣いてしまうから。


「だから大人しく住んどけばいいんじゃない」


住まない、という選択肢は不自然だよねという話はとLINEでしていた。
だから結局私はなんだかんだで剛くんと住むことになるんだと思う。
そうしたら今までみたいに雅紀の家に急に行ったり、泊まったりなんてきっとできない。
私は最低なことにうだうだと話して、住まないで済む理由を探していたのだ。
そんな理由はきっとどこにもないのに。


健くんとバイバイをして代官山から渋谷まで歩く。
すっかり散ってしまった桜の花びらがピンク色の絨毯を作っていた。
桜が満開だった頃に、雅紀が銭湯帰りの道に咲いていた桜が綺麗だったと写真を送ってきてくれたことがあった。
なんていうか雅紀のそういうところが好きだ。
そんな感傷に浸ったところでスマホがけたたましく鳴りだした。
雅紀からだ。慌てて通話にして電話に出る。
ちょっと久しぶりでドキドキした。


「あっ!、今平気?」
「うん、今外だし大丈夫だよ」
「今度そういえば仕事で剛くんと一緒なんだよね」
「あっ……そうだ、忘れてた」


音楽番組で一緒になるってそういえば剛くんも言っていた。


「やっぱ緊張しちゃうなあ」
「ごめんね」
「なんで謝ってんのー?!」
「いやぁ、やっぱり、ねぇ……」
「悪いのは俺も同じだし」


悪いって思ってるのに好きになる気持ちは止められないし、会わないでいるなんてこともやっぱりできない。
実際、雅紀と会うことは控えていかなければと思ったりもしていた。


これから来れる?」


行く、と私は返事していた。
こうなると雅紀のことしか考えられなくなる。
控えなければいけないと思っていたのに全然駄目だ。
桜の絨毯を踏みつけて私は駆け出した。
最低だと思いながらも駆ける足を止めることはできなかった。




2017/5/4 18号