ドキピー

背中の爪傷に愛を

間違いない。絶対怒っている。
押し倒されたベッドに沈みながら見上げた雅紀の表情は眉間に皺を寄せて見慣れない顔をしていた。
掴まれた両腕にこめられた力は強くてそれが少し痛い。
今までこんな風な扱いは受けた事がなくて、抗議をしようにもうまく言葉が出て来なかった。
少し前からなんとなく様子がおかしいとは思っていた。
それはLINEのやり取りの中で、少しの電話でのおしゃべりの中で。
いつもと違う、というのはわりと気づくものだ。
単に疲れているだけなのかと思ったけれどそういうわけでもなさそうだ。


そして呼び出され、玄関に招かれるとすぐに腕を引っ張られて寝室に連れこまれて今この状況。
淡々と雅紀に脱がされていく服がベッドの下に落とされていく。
それを視界の端でとらえながら下唇を噛んだ。
私だけ脱がされて雅紀自身は脱ぐ気配は一切ないので、それが私の羞恥心を高める。
ブラジャーを取り払われたところで、そのまま雅紀の手が胸元に触れて小さく声が漏れた。
やわやわと揉まれるともどかしいような快感に思わず両足を擦り合わせてしまう。
首筋を舐められてそのまま下った先の胸の先端を口に含まれて身体が跳ねた。
両腕は頭上で固定されて身体の自由がきかない。
いつもより乱暴に扱われていることに若干腹が立ってきたので、思い切って話しかけてみることにした。


「ねぇ……」
「なに?」


無視してくるかと思ったのに意外にも返事をしてくれたことに少し面食らった。
でもその表情からは感情が読み取れない。


「腕、離してくれない?」
「それはダメ」
「なんでよ」
「なんでも」


その間雅紀は少しも表情は変えずに私の腰の辺りから太ももをなぞる。
未だ脱がされていないショーツ越しに触れられて再び声がもれてしまう。
身体はとっても素直に反応していて濡れていることが自分でも分かる。


「胸しかいじってないのにそんなに良かった?」


意地悪く言われて自分の顔が熱くなった。
雅紀の唇の端が上がっている。やっと変えた表情はそれでもあまり見たことがない。
いつもと違う触り方と責め方に普段よりも感じてしまったなんて言えない。
ショーツの中に入って来た指が自分の中に入ってきて良いところに触る度に声が我慢できない。


「や、やだ、やめて」


思わず出た私の言葉に雅紀は聞く耳を持たずそのまま指を出し入れする。
止まらない快感に我慢できず私は達してしまった。
ぼーっとする中覆い被さってきた雅紀が今度は中に入ってくる。
いつの間にか拘束が解かれていた両腕で、ようやく私は雅紀を抱きしめることができた。


「つかまえた」


そう言うと、雅紀が深く奥を突いてきて私はより一層彼にしがみついた。
そんな私の中にいる雅紀はコンドームをつけていないような気がする。
今までつけないでするなんてことは一度もなかった。


「っ、あっ、雅紀、ゴムは?」
が悪いんだよ」
「え……?」
「剛くんと同棲するんでしょ」


誰から聞いたの?違うの。言おうと思ったんだけど、何て言えばいいか分からなくてすぐに言えなかったの。ごめんね。なんて台詞が頭の中を埋め尽くしていく。
これが理由なら雅紀が怒るのも無理はない。
揺さぶられながら、これはもう雅紀の好きにさせてあげようと思った。
流石に中に出しては来なかったものの、私のお腹に吐き出してから「ごめんね」と謝ってきた。


「私がすぐに話さなかったから……私の方こそごめん」
「うん。いやでもだからって、ナマでするとかダメだよごめん」
「そこは反省して」
「反省する」


賢者タイムだからだろうか。怒っていたはずの雅紀は冷静さを取り戻したのかいつもの雰囲気に戻っていた。


「もし出来ちゃったら責任取るから」
「そしたら剛くんとは住めないなぁ」
「俺と結婚するしかないね」
「結婚かぁ」


現実感が全くわかない。妊娠して子供が産まれる未来の想像も全くできない。
その相手が剛くんであっても雅紀であっても。


「でもまだ剛くんと具体的にいつ一緒に住むかは決まってないから」
「そうなんだ」
「うん。決まったら話す感じにしようかと思ったのに……誰から聞いたの?」
「健くんがこの前Mステ終わりで」
「あいつ……話すんじゃなかった」


こんなことなら口止めをしておくべきだった。
はあ、とため息をつくと背後からあったかい体温に抱きしめられる。
肩口に雅紀の黒髪があたって甘いシャンプーの香りがした。


「剛くんより好きって言って」
「突然なに?」
「嘘でもそう言ってくれたら許す」
「言わなかったら?」
「このまま首にキスマークつける」


確かにそれはまずい。大人にもなって首筋にキスマークをつけられることほどみっともないことはない。


「雅紀のことが剛くんより好きだよ」


肩口にある雅紀の耳元で内緒話をするみたいに言ってあげた。
すると、伏せていた顔をあげてすごくすごく嬉しそうに笑ってから、頬っぺたにキスをされる。
それから今度は私から雅紀を押し倒したのだった。




2017/5/8 18号