ドキピー

その目の奥で揺れる

気の済むまでを抱いた後、終電をとっくに逃してしまった彼女はこのまま家に泊まって行く事になった。
もうなかなかこういう事も出来なくなるのかと思うと、気持ち悪いけれど本当に時間よ止まれ!と思ってしまう。


リビングでは録画してあった貴族探偵を鑑賞中だ。
手を繋いで俺の左肩にもたれながら、楽しそうにテレビ画面を見つめている。
俺はといえば自分が演じている所為もあるけれど、この恋人みたいな状態のせいで内容が全く入ってこない。
の小さい手の感触と、左肩から伝わるの体温ばかりが気になる。
どう考えても普通に付き合ってるとしか思えないシチュエーションなんだけれど。
最後まで見終わった後、が熱っぽいため息を吐いた。


「素敵……」
「え?」
「御前様が素敵……私のこともケアしてほしい」
「えっと……それはつまり俺が素敵って話しだよね?」
「ううん。違う。御前様」


とびきりの笑顔でそんな事を言われた。
思わずこっちは返す笑顔が引きつってしまう。
そうだった。は基本こんな風に意地悪な女の子だったんだった。
さっきまでベッドの上ではあんなにも従順で可愛かったのに。


「忘れてもらっちゃ困るんだけど、あれは俺だからね」
「えー!全然違うじゃん。優しくて、時に厳しくて、かと思えば気が利いて優しい」
「俺だって優しさでは負けてないよ!」
「ふふ、冗談だよ。雅紀も素敵だよ」


こんなのはずるい。アメとムチってやつだ。
だいたい素敵だなんて言葉、昔付き合ってた時ですら言ってもらったことない気がする。
繋ぐ手が暖かくて、やっぱりどうしてもこの手を離したくない。
どうにかしてこのままをここに閉じ込めておくことはできないものか。


「どしたの?まさか本気で拗ねたの?」


黙って考え込む俺を下から心配そうに覗き込んでくる。
その心配そうな瞳が今は俺だけを映していて、今までは剛くんのことしか映していなかった瞳だ。
やっとまた俺を見てくれるようになった。


「分かった。変なこと考えてたでしょ」
「え?!」
「私もう貴族プレイはしないよ?」
「そんなこと考えてないから!」
「嘘!違うの?」


全く検討違いなことを言い出すに思わず笑ってしまう。
の身体を引き寄せて、自分の足の間に座らせてから抱きしめた。


を軟禁する方法を考えてたの」


俺の告白にが怪訝そうに振り返った。
剛くんと住むなんてそんなの許さないよ、って言いたい。でも言えない。
こうして来てくれるんだからそれだけでも十分じゃないかって自分に言い聞かせる。


「雅紀って、案外そんな闇的なこと考えたりするんだ」
「考えるよ。でもさっきのは冗談だけどね」
「なんだ冗談か〜」


腕の中のが残念そうに言うから耳を疑った。


「いや普通に考えて冗談でしょ」
「ほんとでも良かったのに」
「じゃあ俺と住む?!」
「私と雅紀が同棲したらは喜ぶかな?」
「きっと喜んでくれるね!」
「だよね。遊びに来たりして楽しそう」


そんな日が来たら本当に楽しいだろうな。
翔ちゃんも呼んで、ニノにはスーパーでばったり会っても言い訳しないで済むし。
楽しい同棲ライフを想像して口元が緩んだけれど、現実はそうはいかない。


「チャンスがあればまた遊びに来るからね」


はやっぱり剛くんと住むらしい。
だからもう会うのはやめようって言われなかっただけ良かったのかもしれない。
が眠そうに欠伸をし出したから眠ることにする。
くっついて小さいを抱きしめて目を閉じた。
このまま朝が来なければいいのにと願いながら。




2017/5/20 18号