夜をあげる
なんだかんだで雅紀に会うのは結構久しぶりになってしまった。
ここ最近プライベートが充実してしまって、休みの日は予定で埋まっていたから雅紀の部屋にもなかなか行くことができなかった。
剛くんと一緒に暮らし出したら雅紀の部屋に泊まったりできないってと話していたにも関わらずだ。
雅紀もそう暇ではないしむしろ忙しいから、よく考えたら今までどうにかして会っていた事の方がすごい。
剛くんとは休みの日に会わずとも、平日の仕事帰りにタイミングが合えば外でご飯を食べたり、剛くんの部屋に泊まったりしていた。
その時に、物件の話とか、引っ越しのタイミングの話をしたりしたけれど、いまいち一緒に住む実感はわかないままだ。
金曜の19時。仕事終わりのサラリーマンやOL、外国人達で賑わっている飲み屋で雅紀を待っていた。
お店は立ってお酒を飲むカウンタースペースと、座って飲めるエリアに別れていて、私はその座って飲めるテーブル席に案内された。
いつの間にか雅紀が予約をしてくれていたらしい。
今夜は満席で、予約がないとテーブル席には座れないらしかった。
メニューを見ながら何を飲もうか考えていると隣の椅子が引かれて、やってきた雅紀が着席する。
マスクにキャップ姿だけれど、さっさとそれを全部取っ払って、うーん!と伸びをした。
「お…お疲れ様」
「おつかれっ!もう頼んだ?俺はとりあえず生で!」
「いや、まだ頼んでないし、まだ飲むの決まってないから。私もさっき来たとこだし」
「そうだったの?!も生にしなよ!すみませーん!」
びっくりするくらいにテキパキと雅紀は勝手に飲み物と料理まで決めて店員さんに注文してしまった。
雅紀は昔から大人数での飲み会の幹事的なことをよくしていたような気がする。
だからなのか妙に手慣れていた。
「私あんまりビール好きじゃないんだけど」
「大丈夫!のはちょっと甘い飲みやすいやつにしてあげたから」
むくれる私をよそに、にっこにっこな笑顔を向けてくる雅紀に不覚にも心臓がきゅーっとなってしまう。
ここのところ会わないでいたら一時期よりも自分の中の雅紀メーターは落ち着いていたのだ。
いつも通りに仕事をして、時には剛くんと過ごして、雅紀とこうなる前の生活。
でもそれも今の笑顔で一瞬で色を取り戻したかのようになってしまった。
再び私の中の雅紀メーターは振り切って、鼓動が早まるのと頬が熱くなるのが分かる。
それを誤魔化す為に運ばれてきたビールを受け取って、すぐに口をつけてしまった。
乾杯をせずに口をつけたことで雅紀が避難の声をあげる。
「なんで飲んじゃうかな〜?!」
「あっ……美味しいね。これ」
「だから言ったでしょ。飲みやすいやつにしてあげたって」
遅れた乾杯をして、雅紀が一気に半分までビールを飲み干す。
ビール党の人達は本当に美味しそうに飲む。
そんな姿を見る度にうらやましいと思うけれど、私にはその良さがどうも分からないままだ。
それにしてもこのお店の喧騒はすごい。
さっきよりもお客さんの人数が増えたし、カウンターエリアでは女性客と男性客がきゃっきゃっと楽しそうだ。
確かにこんな場所ならここに雅紀がいても紛れてしまうのかもしれない。
でも私からしたら雅紀は特別だからすごく目立って見えてしまうのだけれど。
「なに??そんなに見つめられると好きになっちゃうんだけど……」
「髪伸びたね」
「スルー?!髪ね、伸びましたよ」
「ちょっと会わなかっただけだったのにすごーく会ってない感じするね」
「結構空いたよ?!は俺がいなくても楽しく過ごしていたんだね……」
「私はテレビで観てるから」
実際会わなくても週に何回も雅紀をテレビで観ることができるから、会ってないけれど会っているような、なんとも不思議な感覚なのだ。
「テレビ観てくれてたの?!」
「嫌でもテレビつけてればCMでも出てくるもん」
「が観てくれてるとあればお仕事がんばっちゃお」
あっという間に空になってしまったビールのおかわりを雅紀が注文する。
雅紀が楽しそうだから、たまには外で会うのも悪くないのかもしれない。
そんなことを考えていたら、私の左手に雅紀の右手が重なって指を絡められる。
「これは……アウトじゃない?」
「なんで?」
「言い逃れできなくない……?」
もしも、こんな場面を知り合いに見られて、それがどうにかして剛くんの耳にでも入ってしまったら……まずいのではないだろうか。
「じゃあ離す?」
「う……」
「が決めてよ」
「うぅ……」
私だって、雅紀にくっつきたいし、手だって繋いでいたい。
ちゃんとした恋人同士なら当たり前にしているようなことを雅紀としたい。
可能であるなら今すぐにキスをしたい。
色々なしたいが頭の中をぐるぐるまわって、私の出した答えはこのままでいることだった。
「少しの間だけだよ……」
「……俺に甘くなったよね?」
そう。私はいつの間にか雅紀をとっても甘やかすようになってしまった。
誰のせいでこんな風になったと思ってるんだろう。
全く腹立たしくて、絡められた指にぎゅっと力をこめた。
雅紀が痛い!と喚くのは無視をして。
夜がはじまったばかりで、この後もまだ一緒にいられると思うと、私は自然と笑顔になってしまうのだった。
2017/6/9 18号