ドキピー

身体の奥、痕を残すの

ご飯を食べたらそのまま自分の家に帰るつもりだったのに、本当に帰っちゃうの?なんて眉尻を下げて悲しそうな顔で言われたら帰ることなんて出来なかった。
タクシーに二人で乗り込んで、消えない罪悪感に溜息を吐く。
いつまで経っても慣れることはない。
慣れて何も感じなくなったらそれはそれでやばいんだろうけれど。
タクシーに二人で乗るのはたぶん初めてで、私はドアにぴったりくっついて雅紀から離れるように座っていた。


「なんでそんなはじっこに座るの?」
「逆になんでそんな呑気なの?」
「だーいじょうぶだって。誰も見てないから」


その自信は一体どこからわいてくるんだろう。
はぁ、と溜息を再び吐いてスマホを取り出したら、からLINEが来ていた。
たわいもない会話の続きの返事だ。
その返事に今から雅紀のマンションに行くところだと送ると、すぐに既読がついて、『きゃー!ラブラブね!ということは今日はお泊り?!』なんてテンション高い返事がきた。
そもそも泊まるつもりはなかったから何の用意もしてないけれどおそらくそうなる。
私は雅紀の部屋に私物を置いていない。
必要な物は雅紀が用意してくれているからそれを遠慮なく使わせてもらっている。
に返事をして、トーク一覧ののすぐ下にある剛くんの名前を見てからLINEを閉じた。
剛くんと最後にやり取りをしたのは今日の昼間。
今なにしてるかな?って考えたところで、タクシーが緩く停止した。
ドアが開いて、先に出てと雅紀にジェスチャーされて降りる。
夜風が強くて少し肌寒い。羽織ったカーディガンの胸元をぎゅっと併せて、タクシーから降りてきた雅紀の後を少し離れてついて行った。
なんだかんだこういう時は手を繋いだりしてこないところが、勝手だけど寂しいって思う。
だからって隣に並んで自分からその手を取ることもできないんだけれど。


恨めしい気持ちで雅紀の背中を睨みつけながらエレベーターに乗る。
そんな私の胸中なんか絶対伝わってるはずないのに、上昇をはじめるエレベーターの中で、雅紀に背後から抱きしめられた。
剛くんは好きで香水をつけているから甘い匂いがするけれど、雅紀の匂いは雅紀だなって感じの匂いがする。しかもそれがすごく落ち着く。
ああでもやっぱりドキドキもする。


いい匂いするね」
「きも……」
「……そういうこと言うの?えい!」
「ひゃっ」


首筋に雅紀の唇があたって肌がチクリと痛む。
瞬時に何をされたのか理解して、首だけで振り返った。
とんでもないことをしてくれたものだと睨みつけるけれど、雅紀はさして気にしてない顔で到着したエレベーターからおりていく。
部屋の中に入って、私はとりあえず洗面所に駆け込んでさっき雅紀に吸われた首筋を確認した。
予想通り鬱血した跡が残っている。
思わずその場で雅紀の名前を呼ぶと、はーい!なんて呑気な返事をしてやってきた。


「ほんとまじでありえないびっくり案件なんですけど……」
「ちょっとだけじゃん。そんな濃くないしよーく見ないとわかんないくらいだよ?」


鏡越しに睨んでも全く効果無しで、むしろ満足気に唇の端が笑っている。ほんとうに憎たらしい。
エレベーターの続きと言わんばかりに、再び背後から抱きしめられた。
流れるように雅紀の指が私のカーディガンのボタンをひとつづつ外していく。


「何してるの?」
「脱がせてるの」
「何故?!」
「お風呂入るかなって思って」
「いいよ、自分で」


やるから、と続きを言う前にカーディガンのボタンを全て外した雅紀の手が、素早くキャミソールの下に滑り込んでブラジャーのホックを外してしまった。
呆気に取られている間にカーディガンとブラジャーも取り払われて、雅紀の両手はささやかな私の胸に添えられている。
まさかと思ったらそのまさかで、やわやわとその手が動き出す始末だ。


「な……んで、揉む、の」
「ごめん。そこにおっぱいがあったから」
「んっ、さいあく」


私の肩口に埋められた雅紀の唇が、さっきつけられた鬱血した首筋にキスをして濡れた舌で舐めあげられる。
耳たぶを軽く噛まれて、思わずびくりとしてしまった。
口では悪態をつきながらも、雅紀から与えられる快楽に頭がしびれる。
その先ももっとして欲しいと思ったところで、雅紀の動きがピタリと止まった。
振り返ると、スマホを見ている雅紀が怪訝な顔をしている。
電話がかかってきているみたいだった。


「出れば?」
「ごめんね。……もしもし?風間?なに?」


どうやらお友達の風間くんからだったみたいだけれど、出たそばからすぐに雅紀はその電話を切ってしまった。


「早くない?!なんだったの?!」
「いきなり相葉ちゃんいつもありがとう。とか言ってきて意味わかんないから切っちゃった」
「それは……意味わかんないね」
「それにしても、その格好えっちだね」


全く誰のせいで半裸にさせられたと思っているのか。
しかもスイッチまで入れてきたくせに。
だから私は自分でスカートのファスナーを下ろしてみる。ストン、とスカートが床に落ちた。


お風呂はいる?」
「お風呂どころじゃない」


分かっててそんなとぼけた事を言ってくるのがやっぱり憎たらしい。
雅紀の手を引いてキスをした。
動物みたい。罪悪感さえなくしたら、本当に動物になっちゃうね。




2017/6/12 18号