触れ合うくらいマゼンタブルー
横顔の影になる長めの前髪が、数日前に会ったもうひとりの私の好きな人と似ていて胸が痛い。
ドラマの台本のページをめくっている横顔を眺めながら邪魔しないように私はスマホのゲームをすることにした。
ただ画面をタップしてれば良いアイドル育成ゲームだから楽なものだ。
私は剛くんの横顔がとても好き。
顎の先から耳にかけてのラインがすごく綺麗。
ずっと眺めていられる。
剛くんは1人掛けの革のソファに座って真面目な顔で台本とにらめっこだ。
革のソファは剛くんのお気に入りで私はなかなか座らせてもらえない。
いない時はいつも勝手に座ってるけど。
高いだけあって居心地が良いから、そこに座って漫画を読みながら寝落ちしてしまうのが私のお決まり。
今日も剛くんはとてもかっこいい。でも私はやっぱりもう一人のことを考えてしまう。
剛くんとは違うキスの仕方とか、私が見上げて話しかけた時に少し屈んで聞いてくれたり、なんでも許してしまいたくなるような笑顔を思い出す。
『今日は音楽番組に出るから実家なうだよ』ってLINEがお昼前に届いた。
会場が実家近いと雅紀はいつも出番まで実家で過ごすのがお決まりみたいだ。
翔くんは司会をしているから大変だね、って返したら、今度たこ焼きパーティーしようよちゃんも呼んで!という唐突な話題転換をされた。
そういえば前にガスのたこ焼きの機械を買ったって見せられた。ガスだから早く作れるし、生地も良い感じの配合がわかったから!と熱弁されたのを思い出す。
返事をしようとして、ふと剛くんが動いた気配がしてLINEをそっと閉じた。
「なにやってんの?」
「ゲームしてるの」
「ラブセンは?」
「あ……最近ぜんぜんやってないごめん」
「俺に課金しろ」
「うっわ、本人に課金しろって言われたらファンは絶対するよ?恐ろしいわ……」
ラブセンていうのはV6公式恋愛アプリゲームだ。アバターの着せ替えで可愛いくしたいなら課金は必須。
ストーリーをクリアするのに必要アイテムを手に入れないと良いエンディングが見れなかったりもするのでうまいことできている。
「前から思ってたんだけど。特典でもらえるボイス……もうちょっと気持ちこめて?!」
「はぁ?やってるよ」
「全然だめ!好きだよ、とか全然棒読みだもん!声優さんはもっと甘くやってくれるよ?」
「声優じゃないから俺は」
確かに、剛くんらしいといえばらしい。
棒読みなことにむしろ私は笑った。でもやっぱりもうちょっと気持ち入った方がみんな嬉しいはず。
「だいたい何歳だと思ってんの?38だよ?おっさんに何やらせんだよ……」
言いながら私の隣に座る。もう台詞は覚えたから、来てくれたのだろうか。
ため息まじりに私の肩に頭をぽてっと倒してきた。
その珍しい行動に身体が思わず強張る。
「だ、大丈夫?もしかして最近忙しいし疲れてきた……?」
「んー、そこそこ。ごめん。引っ越しとか結局すぐは無理そう」
「いいのいいの!だって、どう考えても今は無理だよ。ツアーもあるし、ツアー終わったら舞台はじまるし」
「……あんま残念そうじゃねーな」
肩にもたれた頭が離れて、言われた台詞にドキリとしてしまう。
そんなことはない、と言おうとして隣を見やる瞬間、唇が触れた。ああ剛くんの唇だ。
とても久しぶりのキス。髭があたるのが少しくすぐったいのも久しぶり。
入り込んできた舌に息が詰まる。次第に倒されていく身体がソファーに沈んで、雅紀にLINEを返していないことが気になった。
カットソーの中に入ってきた手の動きに反応して思わず身体を捩る。
その最中も止まることのないキスに、だんだんと何も考えられない。
雅紀のことも考えられなくなって、私は早く気持ち良くなりたいと思ってしまった。
あっさりと十分に潤ってしまった身体に剛くんが侵入してくる。
そういう時の剛くんはやっぱり顔にかかる前髪が信じられないくらいにセクシーで、私はそれを見るだけできゅっと締め付けてしまう。
剛くんはずるい。私の気持ちを簡単にそうやって。
気持ち良さの余韻にぼーっとしてソファーに横になっていたら、剛くんがテレビをつけた。
タイミング良く映し出される雅紀に思わず「あ、」と声が漏れる。
LINE、返さなくちゃ。がんばってねってまだ言えていない。
2017/7/3 18号