ドキピー

太陽フレア

年々酷暑になって行く夏の日差しにうんざりしながら、襟足から流れる汗を不快に思いつつ待ち合わせの喫茶店に入ると、冷房の効いた店内が本気で天国に思える。
まとわりつく熱が引いていくのを感じながら、が座るテーブルを見つけて移動しようとすると、その隣によれよれのTシャツを着てキャップをかぶっている猫背の男を見つけてしまった。
あれは、間違いなく、あの男だ。
二宮和也に違いない。
は何やら話しかけられているみたいで、困り顔になりながらも相手をしている様子だ。
たまたま遭遇してしまったんだろう。
また色々言われるんだろうなぁ、と思うと引き返したくなった。


「あっ!!」


弾んだ声でに名前を呼ばれて、もはや引き返すことは不可能。
苦笑いで返事をして、意を決して2人のテーブルに着席する。


さん遅いよ」
「いやぁ…ニノさんと待ち合わせした記憶はないんだけどなぁ…ねぇ、
「そうなの……わたしも記憶にないのよ」
「冷たいこと言わないでよ。友達じゃない」


唇をにっこりとさせながらそんなことを言うニノは正直怖い。
私達って友達だったんだ。知らなかった。


「2人はこれから出かけるわけ?」
「映画をね、観に行くの」


アイスティーを飲んでいる私のかわりにがニノの質問に答えてくれる。


「いいね。何観るの?」
「昼顔だよ」
「あー、不倫の映画ね」
「ちょっと!間違っちゃいないけどその言い方はやめて!」


黙って聞いていたけれど、思わずツッコミを入れてしまった。


「女子ってそういう映画好きだよね。なんで?」
なんで、と聞かれても困る。女子という括りにしてしまうと偏見と言わざるをえない。
たまたま私とはテレビドラマの時から見ていて、続編が普通に気になっていただけだ。


「そういえばもう前になるけど、番宣で昼顔の2人と共演しましたわ」
「あ、私それ見たよ。斎藤工って背が高いんだね。嵐全員が小さく見えた」
「我々元から背は高くないからね。さんは見なかったんですか?」
「え?!見たよ!たく……、斎藤工が翔くんとデュアルカーリングをやっていたよね」
「おや。さんが見てたなんて珍しい。翔さんがはあんまり俺が出てる番組は見てくれないって言ってましたよ」
「み、見れる時は見ているよ!」


ニノに反論をしてぷくっと頬をふくらませている。
片やニノは目が楽しそうに笑っている。
やっぱり怖い。間違いなく楽しんでいる。


「セックスレス問題はどうなったの?」
「やだー!なんで昼間からそんなこと聞いてくるのー」


の言う通りだ。まだお日様は真上にいるというのに、流石すぎる。


「別にいいじゃないの。子供じゃあるまいし」
「今は出来ないの!……その、膀胱炎になってしまったから、しばらくそういうのは禁止なの!」
「え?!そうなの?!」


知らなかったから思わず私が反応してしまった。
は頷いて、下を向いてしまった。
ニノは感情が篭ってるんだか篭ってないんだかわからない声でお大事にしてくださいよ、と言った。


「で、さん」
「え?!?!今度は私?!」
「そのピアスは……新しいピアスですよね?」


思わず右耳に触れる。
ゴールドの円形のシンプルな小さいピアスは確かに新しいものだ。
それを何故ニノが分かるのだろう。


「それをつけてる人もう一人いるの知ってるんですよ」


本当に本当に目敏くて真剣に感心してしまう。
そのもう一人っていうのは剛くんだ。
剛くんはこのピアスを左耳につけている。


「彼氏とお揃いにするなんて、さんも可哀想なことをするんですね」
「……は?何が可哀想なの」
「相葉さんがそれを見たら悲しむだろうなと思って」
「はっ!そうだよ。相葉っちゃんが悲しんでしまうわ」
まで何言ってるの?!」


だって、剛くんが片方あげるって言うから貰ったわけで、言われてみればお揃いだけど、私は決してラブい気持ちでこれをつけたわけではなかった。
剛くんも彼女にプレゼントをあげるというようなかしこまった感じでもなかったし、お菓子を半分あげるかのように渡してきたから、雅紀が悲しむとかそんなこと全く考えてなかった。


さん、あなたバカなの?」
「やだ…むかつく」
「剛くんが本当に何の気なしに渡してきたって本気でそう思ってるの?」
「違うの?」
「そんなわなけないじゃん」
もそう思う。森田さんて意外とのこと好きな感じするもの」
「え?意外と??」


なんだかサラリと聞き捨てならなかったような気もする。


「剛くんに渡されて、何か言われなかった?」
「高かったんだからちゃんとつけろよって……」
「ほらね!やっぱり!そういう事言うのはつけてもらいたいからでしょ!」
「相葉っちゃん森田さんとこの前会ったようなこと言ってたから、ピアス見てるだろうし、きっとお揃いだって気づいてしまうわ!」


でもだからと言って森田さんからのプレゼントをつけないでいるというのも無理な話しだし困ったわ……と、何故かが真剣に悩んでくれている。
ニノは満足気な顔で水を飲み干すと、私達ににっこり微笑んで立ち上がった。


「お2人さん、映画、時間大丈夫なの?」


スマホの時計を見ると、思ったより時間が経っていてと慌てて喫茶店を出た。
映画館まで急ぎ足で向かう中、ニノは一体何だったんだという話しになる。
右耳のピアスが雅紀を悲しませると思ったらとても心が痛くなった。




2017/8/3 18号