ドキピー

幼気な涙はきみのかけら

部屋の中とベランダにいつの間にか増えていく緑、緑、緑。
剛くんは観葉植物を育てるのが趣味で、きっかけは知り合いからもらったらしい多肉植物がはじまりだった。
綺麗なサボテンだね、と言ったらサボテンじゃないからと怒られてしまったけれど。
そこから自分で買ってくるようになって、気づいたらなかなかな量になっている。
この前も翔くんの番組で20万も払っていくつか買ってくるし。
動かない物を愛でるようになったら年を取った証拠らしいよって言ったら笑ってたけれど、そのチラリと八重歯を覗かせた笑顔は昔のままだから安心する。
そして最近ドラマやらコンサートのリハやらで忙しい剛くんのかわりに水やりをしてあげているわけだ。
緑に囲まれたベランダに置いてある小さい椅子に座ってひと息ついた。


この前と昼顔の映画を観に行った帰り、ご飯を食べてから雅紀の家に寄った。
映画を観るとその世界のことをしばらく引きずってしまうから、雅紀の部屋に着くまでの間何度も泣きそうになった。
悲しい映画だったのだ。なんか上映後もぐすぐずと泣いていた始末。
ドアを開けて出迎えた雅紀は私の顔を見て驚きの声を上げた。
赤くなった目に涙のあとを見れば誰だって何かあったのかと勘違いしてしまうに違いない。
案の定雅紀はあたふたとしながら私を中に招き入れてソファーに座らせると、一体どうしたのかと尋ねてきた。
だから私ははっきりと答えた。映画を見ただけだと。


「え?映画??」
「うん。と昼顔観てきたの。すっごい悲しくて……思い出しただけで涙が……」
「なんだ……びっくりした。剛くんとケンカでもしたのかと思った」


そう言って雅紀は安心したのか悲しんでるのかわからないような顔で笑った。


「あ、ごめんね。紛らわしくて」
「別に平気だけど。そんなに悲しい内容だったの?」
「不倫の映画だからね……そういう題材は結局厳しい結末になりがちなんだよ」
「いけないことですからね」


雅紀はまた少しだけ髪を切り揃えたみたいで、もみあげも綺麗になっていた。
思わずそのやわらかい黒髪に触れて、頭を撫でる。
それからキスをして、雅紀の肌に触れていけないことをする。
剛くんとお揃いの右耳のピアスには気づかなかったみたいだった。
私は雅紀を好きだし、雅紀と一緒にいたいと思うのに、私は今剛くんのところにいる。


剛くんが私に与えた植物の水やりはもしかして雅紀に会わせない為じゃないよね?
突然のお揃いのピアスといい……まさかね?
気づかれているわけはないと思うけれど。
そんな事を考えていたらベランダの窓が開いた音がした。家主のご帰宅だ。


「おかえり!今日どうだった?」
「ん?まあまあ」
「そっか、まあまあかー」


買ったばかりのなんとかって植物の葉っぱのチェックをしながらなんてことない会話を交わす。
剛くんは髪がだいぶ伸びた。雅紀と似たような髪型になった時はあまり似合わないと思ったけれど、今では見慣れた所為なのかそんなに似合わないとも思わなくなった。


「そっちは?」
「私?私は……この前と映画を観て……楽しかったよ」
「ふーん」


相変わらず言葉数が少ないから、まさか本当に何か気づいているのかと無駄にドキドキしてしまう。
剛くんはもし私がしていることを知ったらどうするんだろう。
あっさり別れるんだろうか。もしそうなったら、勝手だけれどたぶん私は泣くと思う。
自分が悪いのにきっとすごく泣く気がする。


「腹減った」
「あ、私もお腹空いた」
「焼き鳥食べに行くか」
「行く!」


立ち上がって、剛くんの手を握った。
握り返してくれた剛くんに安堵して、やっぱり私は勝手な女だなと思った。




2017/8/14 18号