37℃の夢心地
「やっと戻ってきてくれたんですね」
第一声から涙声になってしまって、はて?という顔をされる。
目の前に現れたのは、結婚のウルミーのときとも、ライブで見せてくれた少しセクシーな姿とも違って、こんがり焼けた肌に、少し痩せたのかなと思うワイルドな人だった。
「海外で。焼けましたかね」
「うん。焼けてます、だいぶ」
痩せた体のラインに触れたくなった。
わたしは細い人が好き。
細くて少しだけ筋肉質な人、とても好き。
あれ?そもそも彼に対して触れたいとか、そんなことを思うなんて。
もう1ヶ月とか、顔を見てなかった。
たくみくんの家に泊まって、翔くんは24時間テレビという大役があったから仕事が忙しくて。
にもちょっと前に会ってカラオケに行けたけれど、相葉ちゃんにも会えていない。
彼は何気なく仕事の合間に動画での電話をくれることがあって、タイミングが会えば少しだけ話はしていたけれど、基本的にはLINEで今日のごはんだとか、天気の話とか仕事の話…差し障りのないことのやり取りをしていた。
わたしもこの夏の後半は文字通り分刻みスケジュールをして、今ではがんばりすぎて体調を崩している。
膀胱炎は随分前に治って、翔くんは喜んでいたけど。
ニノからはその件でおめでとうございますのLINEまで来た。おかしい
「さん少し痩せました?」
「えっ、それはわたしのセリフです」
「顔が小さくなりましたね」
「本当に?うれしい」
「ただちょっと声が…そんなにハスキーでしたっけ」
意外と鋭いなぁと思う。
声は良くなってきたとはいえガラガラ。
いっときはほとんど声が出なくなっていたのだから良いものの、まだまだ本調子ではない。
「声、酷使してしまって。あんまりおしゃべりもしたらだめなんです」
「僕とは喋ってていいんですか」
「それは…その…特別なので」
しまった。好意を明らかにしすぎた。
いやもうどうせバレバレだから、と開き直る自分もいたりする。
「今回のディーンさんは、ウルミーとはずいぶん違うイメージなんですね」
「日に焼けたからじゃないですか?ていうか映画何度も行ってくれたみたいで、なんかすいません」
「ううん、好きで行ってたから」
「ありがたいですね」
「でもね、キスシーンとベッドシーンは…」
「見てられなかった?」
「もー!見てられない!」
温かいハーブティーに口をつけた。
いつもならカフェモカやカフェラテにするけれど、一応体を気遣って。
彼は相変わらず笑って、どの目線で見てられないんですかと楽しそう。
「ディーンさん。事なんですよ!わたしにとっては」
「何が?」
「その…ベッドシーンとか」
「なんで?あれ、顔ちょっと赤いけど、熱でもあるんですか?」
本当にわからなくて聞いてきてるのかしら。
この人はやることなす事がパーフェクトにわたしは感じるけど、その合間に少し抜けているところがとてもいい。
うまく言葉にできなくてもごもごしてると、彼の方からまた口を開いた。
「まぁ、僕もさんが誰かと演技でキスしてるとしたら、あんまり見たくないなぁ」
「えっ!それは、どういう…」
「よくわからないけど。なんとなく」
そのなんとなくって、どんな気持ちなんだろう。
わたしはこの人とプラトニックなこの関係を続けたい。
さっきみたいに触れたいとか、抱きつきたくなったりする衝動が稀に来ることがあるけれど、今の関係はとても、とても大切だと思う。
「櫻井くんは元気にしてますか?」
「…いま、このタイミングで聞くの?」
「いやぁ、24時間テレビ終わったばかりでしょ」
「少し回復してきてるけど、燃え尽きてます。わたし仕事で番組見れなかったんだけど、最初からサライ歌ってたんだって」
「冒頭から?なんでですか」
「わからない。最後に歌う歌なのかと思ってた」
翔くんは24時間テレビが終わって灰になって、でも日々の仕事に戻ってゆく。
わたしは事務所に管理されてる翔くんに比べるとかなり自由人だから、自分でスケジュール組んで好きに仕事してるけど、その分頭が上がらない。
「ディーンさん、家にマッサージチェアーなんてありましたっけ」
「ああ、今度また来ます?」
「え」
「座らせてあげようかなーって。ただいマッサージ」
ナチュラルボーン天然なんだと思う、この人は。
わたしへの警戒心は以前よりずっと減っていて、ただわたしは嬉しい。
「ところでさん、LINEの誤字脱字がさいきんすごいだけど、わざと?」
「えっ、そうですか?ちょっと最近頭がぼけちゃったかも」
「スタンプとか、Twitterとかいろいろ見てて思うけど、さんて天然だよね」
「わたしじゃなくて、うちのお父さんがそうなの」
「その回答が天然ぽい」
声を立てて笑う姿、とても愛おしい。
2017/9/15 6号