ドキピー

やさしいから、いやよ

夕方、待ち合わせはいつものカフェだった。
彼もそこそここのカフェは気に入ってくれていて、わたしがいつも同じものを飲んでいることに気づく。


「それしか飲んでなくないですか」
「いちばんおいしいんです」
「えっ、お店のメニュー全部飲んだんですか?」
「いえ…これしか…飲んでないけど、たぶんこれがいちばんおいしい」


じゃあわからないのでは、と彼は朗らかに笑った。
確かにいろんなお店でビーフフォーを食べて、食べ比べて、ほんのわずかな違いもわかるくらいだから味に関しては厳しいのかな?
他にもチャレンジすればいいのにと言われてしまった。
次は別のものにしようかなとか簡単に思うから、これは恋なんだと思う。
やばい。これは…噂の、ガチ恋。


さんて、最近いつも体調悪くない?」
「そうですか?でも今、元気だから」
「胃腸はもう大丈夫なんですか。僕の前では無理に元気にしなくてもいいんですよ」
「そんなこと言います?今この瞬間、わたしめっちゃ元気だよ」


膀胱炎、声がハスキーの次は実は胃腸を壊して、なんだか秋から体調は言われたように万全ではない。
けれどもそんなことをふっとばしてくれる笑顔が今目の前にある。
笑うと、目の下と頬の間がえくぼみたいにくしゃっとなる、それを見るととても心が満ちる。


「お疲れのさん。約束通りマッサージチェアーに座りますか」
「え?」
「タクシー呼びますかね。いつまでもカフェにいるわけにも」


気づけばカフェの外は暗く、すっかり夜になっていた。
ちょっと待って、マッサージチェアーに座るって、自宅に行くということなのかな?
何度か行っておいて何だけど、行っていいのかしら。
あれよ、あれよで、気付けばタクシー。


それぞれの色。
翔くんは嵐の中でのイメージもあるけれど赤で、たくみくんは少し憂いのある紫で、彼はきれいなブルー。
青のカジュアルなパーカーがかすかに肌に触れるとき、わたしは心臓の音がとても早い。
それならわたしはあられもないピンク。


「気持ちいい…です」
「しばらく座ってて」


ウィンウィン音を立てる機会に肩を叩かれながら、それぞれの色のことを思っていた。


「すみません。せっかくだからどこかに出掛けることも考えたんだけど、目立ちすぎるかなって」
「ですよね…ディーンさん、背も高いし、あの、その、かっこい−−」
「いや、僕よりさんがね。自分で思ってるより目立ってるかなって。そうでなければ僕、たぶん事務所のエレベーターで会ってもずっと覚えなかったし」
「わたしがですか?」


おしゃれしてきたからいけないのだろうか。
そういえば、少し前のMステで、翔くんと彼が同じカメラのフレーム内におさまっていて、もうどうしようかと思った。
彼が話しているときに、翔くんはニノと後ろで談笑していたから安心したものの、相手がニノだからヒヤヒヤもした。
世界は広くて、とても狭い。

一定の時間が経つと自動的に機械は止まり、なるほど肩は軽くなった気がする。
なんでこれに座らせてくれる気になったのかは不明だけれど。


「ディーンさん。わたしフォーが食べたい。ディーンさんのいちばん好きな店の」
「あれ?まだ連れて行ってなかったですっけ」
「え!行ってないです!…え?誰か連れて行ってるんですか…女子…」
「嘘です、今度ね。というか、足、むちむちしてる」


ふいに彼は屈んでおもむろにわたしのふくらはぎ、もちろんストッキングもタイツもはいていない生の足に両手で触れた。
瞬間、脱毛してるから無駄毛は大丈夫だけど乾燥してカサカサしてないかとかそういう女子的なことを考えたけど、一瞬でそんなの吹き飛ぶ。


「痛い!痛いです!やだ、やだぁ」


ギュウギュウ雑巾みたいに絞られて悲鳴が上がる。
一つ屋根の下で若い男女が、しかも男が女の足元に屈んで足に触れるなんてシチュエーションに、色気はひとつもなかった。


「あはは」
「ひどい…むくんでるのは知ってました。でもそんなにぎゅーぎゅーしたら痛い」
「なんか赤ちゃんみたいな足だったので、ちょっと触りたくなって。うちの子もそんな足してるんだよなぁ」
「赤ちゃんみたいな足…」


忘れてた。
赤ちゃんがいるんだ、この人は。
見た目も行動も、そんな風に見えないのはいいのか悪いのかどっちなのかしら。
無邪気すぎる。


「ところで、体温、さんふだん高いの?」
「あ、うーん、どうかなぁ、そんなには高くないかな」
「計ってみて」


ポンと体温計が出てくるのも、子供がいるからなのかな?
そんなことを思ったらすぐにピピピと電子音が鳴った。


「…37.8…」
「ちょっと高いじゃないですか」
「大丈夫です、特に何も感じないし」


体が熱いのはきっと、彼が足に触れたからで、一緒にいるからで。
翔くんともたくみくんとも感じないような、実際に掴まれたのは足だけれども、心を掴まれてしまったようなそんな感じがするからだ。


「参ったな。少し休んでいってください」
「…というと?」
「ベッドにどうぞ」
「あの…泊まっていってもいいですか」
「いや…僕明日ドラマなのでかなり早くに叩き起こしますよ。夜の間に帰った方が楽だと思うけど。それに大丈夫なんですか?櫻井くんは」
「翔く、あ、櫻井くんは今夜は泊まりで…ううん、だめだったら帰ります」


今度嵐にしやがれに出るんですよとか脅しみたいなことを言われて、何とも言えない気持ちになった。


「僕、結婚してますからね。子供もいる。わかってますか」
「はい。あのね、わたしそういうことが目的ではないんです。ただ…ただ、あの」
「中学生ですか?とりあえず解熱剤飲んで、少し休んで」


中学生って言いながら彼はなぜかずいぶん笑って、そしたらまた目の下と頬の間にえくぼみたいなのができた。
わたしはベッドの上から床に寝転んで台本を読んでいる彼の姿を見ていたら、やっぱり熱があったのかそのまま少し眠ってしまった。




2017/10/14 6号