ドキピー

メーデー

「これおみやげ!翔くんと食べてね」
「えっ、わざわざありがとう!どうしたのえらく機嫌がいいみたい」


朝方家に帰ってきたわたしはたっぷりと仮眠以上の眠りを取り、夕方からはに久方ぶりに家に来てもらった。
タルトの箱を受け取り中を見ると、誰のお祝いというわけでもないのにきれいな、とてもきれいなシャインマスカットのタルトが鮮やかに目に飛び込んできた。


「き、きれい!ありがとう!がシャインマスカットお気に入りって覚えててくれたのね」
「よくツイッターにアップしてるじゃん」
「そうだっけ?」
「うん。それで、熱は大丈夫なの?」
「あっ、うん、お薬きいてて…ごめんね、急に家にしちゃって」


タルトの部分はアレルギーで食べられないあの人に、上の果実の部分だけをスプーンですくって食べさせてあげたい。
嬉しそうに笑うか、少し警戒するか、いたずらっぽくこちらを見るか、どんな顔をするんだろう。
わたしがシャインマスカットなんて高級なフルーツを手に取るようになったの、ぜんぶあの人の影響。

昨日の夜、発熱を指摘されたわたしは解熱剤を飲んでうっかりあの人のベッドで眠ってしまった。
途中目覚めたときには部屋は薄暗くて、あの人は床で寝息を立てていた。
申し訳ないことをしたなぁ、勝手に帰ろうかなぁとも思ったけれど、ベッドの脇に汲んであったコップのお茶が嬉しくて一口飲んだらまたすぐ眠ってしまった。
床で寝ている無防備なあの人の横にいって、頬を撫でてその隣に体を横たえるなんて簡単だけど、わたしは、たぶんわたしたちが築いた大切なものを崩したくないからそんなことはしない。
その次に気付いた時には機械の音がした。
ブオーン、ブオーンと、ドグラ・マグラみたいに浅い夢を見ていたようで意識が朦朧としていた。
部屋はやっぱり薄暗くて、その音がドライヤーの音だとわたしはしばらく気づかなかったほどだ。


「morning」
「何時…?」
「そんな眠そうな顔して。言ったでしょ、早くにたたき起こすって。熱はどうですか」


熱は37.6度あって、そのことを伝えたらあの人はタクシーを呼んで、わたしにお札を握らせてその車両に押し込んだ。
家についてからタクシー代が毎度余るから返したいとLINEしたら、気にしないでくださいとすぐに返事が来た。
それなら今度わたしが何かごちそうしてあげたい。
外はまだ暗くて時間はよくわからなくて、わたしはお釣りを握りしめたまま眠ってしまったのだ。


「熱がある割にはなんか嬉しそうだね」
「えっ!?そ、そんなことないよ、タルトがね嬉しくって…でももご機嫌ね?何かあったの?」
「いやぁ、剛くんがやっぱり王子様でさぁ」
「えっ、あいばっちゃんのことじゃないの…」
「ちょっと、なんでがそんな顔するの?こないだV6コンサートがあったんだよ」


が彼氏の話をしてとても幸せそうなのにわたしは少し悲しくなって、何か大きなものをたぶんずっと勘違いをしているんだろう。
目の前にある本当の幸せは当たり前なのだけど、それだけじゃ足りないのか、求めているのか、わたしは違う男性の家から今日帰ってきたのだから。
何もなかったと神に誓えるけど、神様と本人達以外、わたしがあの人の家に夜行って、朝早くに出たという事実だけ聞いたところで何もなかったと誰が信じるかしら?
さらに言えばその前の日わたしは、また別の男性の家に遊びに行っていた。


、そういえば、翔くんのドラマそろそろだっけ」
「あっ、うん。そうなの」
「またサラリーマン的な感じなんでしょ」
「なんかね、商社マンだったかサラリーマンが出向して校長先生になるの。バリバリ営業な感じって聞いてるよ」
「へー」


にお茶を出していたら、噂をすればな感じでちょうど仕事から翔くんが帰ってきて、がお邪魔してますと軽く挨拶をする。
翔くんはいらっしゃいと少しだけお疲れの顔で答えてから着替えに部屋にこもった。


「なんか疲れてるね」
「昨日お泊まりの仕事だったの」
「そうなんだ。いつ?ドラマ」
「土曜…確か」
「見ようかな。何時から?」


わたしは慌ててテレビを付けて、番組表を確認しようと、何テレビで放送するんだったか思案した。


「22時から!日テレ!」


部屋から声だけ飛んできて、わたしはごまかすように笑った。
日テレ、あの人と同じなんだなと改めて感じたから。


「翔くん、がおみやげにタルト持ってきてくれたの」
「マジか!ありがとう、すげー腹減ってて」
「ナイスナイス体操のしすぎだと思うの」
「何それ」
「いや、新しいCMでさ…って、俺家ではしてないじゃん」


愛も何にも悟ってないのに、ずいぶん勝手だよね。




2017/10/28 6号