やっぱり冬眠したい
剛くんの次の仕事は舞台。
稽古も大詰めですっかり役に入っているから邪魔をしてはいけないと思っていて泊まりに行ったりはしていない。
コンサート以来私は剛くんへの愛を再確認してしまい、本当はあれやこれやと世話を焼きたいのだが最低限で我慢している。
最低限ていうのは剛くんが大切に育てている植物たちの水やり。
その足で雅紀のマンションに行って、今日は帰るつもりだったのにうっかり眠ってしまった。
ふかふかなソファーに横になりながらテレビを見ていたらいつの間にか眠っていたらしい。
その微睡みの中で剛くんが出てきて、何故かベッドの上にいた私は剛くんと深いキスをしていた。
身体中がとろけてしまうようなそんなキス。
でもそれが本当に剛くんなのか輪郭がぼやけてきたところで夢から覚めた。
起き上がるとブランケットが掛けられていて、雅紀の家にいたんだったと思い出す。
よりにもよって、雅紀の家で剛くんの夢を見るなんて罪悪感しかない。
ぼーっとしながら雅紀はどこにいるのかと辺りを見回すと、髪の毛を濡らした雅紀がバスルームから戻ってきた。
「あ、起きた?」
「うん。ごめん寝ちゃってた」
「お風呂入る?お湯ためたままにしてあるよ」
「入ろうかな」
「どしたの?地獄みたいな顔してるよ」
地獄みたいな顔ってどんな顔よ、って突っ込もうとしたけれど確かに今の私はそんな心境だ。
「どのくらい寝てた?」
「30分くらいかな?」
「電車ないじゃん……」
「泊まっていいよ」
「起こしてくれたら良かったのに」
「だって幸せそうに寝てるんだもん」
確かに夢の中で幸せを感じていたのは事実だ。
幸せそうな顔ってどんな顔で寝ていたのだろう。思わず自分の頬を引っ張ってみる。
「何してんの?」
「ニヤついて寝てたのかと思って」
「だぁいじょぶ!可愛いかったよ」
まだ濡れた髪が近づいてきて、唇にあったかいものが触れる。
夢で見た感覚と同じのようで同じじゃない。
離れていく雅紀の腕を掴んだ。
「クリスマス会のことだけど」
「うん」
「誕生日は雅紀の為に空けてはおいたんだよ。会えるか会えないかは別にして」
「そう……なの?!」
「剛くん24日は福岡で舞台の千秋楽なの」
福岡に行くという選択肢はあったけれど、私はそうしなかった。
そのことをなんとなく言いそびれていたら、クリスマス会が行われることになってしまったのだった。
「俺のために行かないでくれたの?」
「福岡って遠いんだもん」
「って、なんだかんだで優しいよね」
ぎゅーっと抱きしめられる。
まだシャワーを終えたばかりの雅紀はあったかい。雅紀が笑っていると私も嬉しくなる。
何も心配しなくていいような、優しい気持ちになれる。
なのに私は雅紀を悲しくさせてしまっている。
「あ!コンサートの初日札幌なんだけどさ、お土産買ってくるね!いつものでいい?」
「私アレがいい!六花亭の最中がいい!」
「最中??バターサンドじゃなくて?」
「六花亭はね、バターサンドだけじゃないんだよ美味しいの」
「知らなかった」
剛くんがこの前のコンサートの時お土産で買ってきてくれて、食べたらすごく美味しくてびっくりした。
食べる前まではバターサンドが良かったと文句を言っていたのだけれど。
「雅紀もツアーで忙しくなっちゃうし暇になっちゃうな」
「もしかして寂しい??」
期待に満ちた子犬のような目でじっと見つめてくる。
さっきまで剛くんの夢を見て彼にときめいていたのに、今はすっかり雅紀が可愛くて私を抱え込む大きな身体が好きだと思う。
雅紀と会えない日が続くのは寂しい。
私の立場でそんなこと言うのは勝手が過ぎるだろうから、素直に寂しいと言うことに躊躇ってしまった。
だからかわりに今度は私が雅紀を抱きしめる。
「髪の毛乾かしなよ。私お風呂入ってくる」
「あ!待って!俺も入る!」
「えっなんで!?さっき入ったじゃん」
「が一緒に入りたそうだったから」
何故そうなるのかと突っ込もうかと思ったけれど、しばらく会えなかったりもするだろうから、まあ良いかと諦めることにする。
「変なことしないでね!」
「それは分かんない!」
そう言いながら上機嫌に笑っているから、やっぱりまあ良いかと思ってしまう。
あったかいお湯の中に入ってとりとめのない話をする。
大ちゃんが毎日ブリトー食べてるとか、ロケで行った土地の話しとか、後輩のこととか。
どれを聞いていても楽しい。
このまま朝が来なくてもいいなんて思うくらいには私はやっぱり雅紀のことも好きなのだ。
2017/12/1 18号